

2020年12月28日
【広島大学の若手研究者】ブラックホール撮影チームの一員 膨大なデータから画像を復元
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大宇宙科学センター 特任助教
笹田 真人 さん
専門は可視光天文学。ジェットの観測を研究
ブラックホールは大変強い重力を持つ天体で、今回は地球から約5500万光年離れたM87銀河の中心にあるブラックホールを観測しました。
観測チームには、世界から200人以上の研究者が加わり、僕が担ったのは簡単に言うと、膨大なデータから画像を復元するソフトウエアの開発。
観測には、複数の電波望遠鏡をつないで、疑似的に地球規模の望遠鏡をつくり、それぞれの観測データを合成する電波干渉計技術が用いられました。
電波干渉計観測では、カメラのように実画像にするのが難しく、取得データから画像を復元しました。
昔からブラックホールの輪郭のシミュレーションがされており、今回、観測されたようなリングは見えるだろうと予想していましたが、実は予想通りの画像だったことにびっくりしました。
撮影に成功したブラックホールの輪郭 ©EHT Collaboration
予想外のことが起きるのが宇宙の研究で、予想外のことは起きてしかりだと思っていましたから。
EHTの観測によってブラックホールについて新たな知見が得られています。
M87の中心ブラックホールに輪郭があることがわかったことで、過去のデータから輪郭構造の時間的変化を調べられ、8年の間で輪郭の構造が変化していることがわかってきました。
さらには私たちの太陽系を含む天の川銀河の中心にも巨大なブラックホールが存在しており、この最も近い銀河中心ブラックホールの輪郭を捉えようとEHTでは現在精力的に研究を進めています。
広島大大学院に進学してからは、広島大宇宙科学センターが西条町下三永に設置している1.5mかなた望遠鏡を使って、目に見える可視光でブラックホールの周辺から噴き出す高温ガス「ジェット」の研究を続けてきました。
広島大宇宙科学センターの1.5mかなた望遠鏡
可視光ではジェットを確認できましたが、今回の電波の画像では、残念ながらジェットを見ることはかないませんでした。
今後の研究で、可視光と電波、さらにはX線やガンマ線といった幅広い波長の光をつなぎ合わせながら、ジェットの謎に迫りたいと思っています。
宇宙は人間の想像を超えています。前述したように、人間の予想と一致しても驚きだし、予想とは違う観測データが得られるのも驚きます。その兼ね合いの面白さが研究の醍醐味です。
もう一つは宇宙には星の数ほど謎があり、何か一つの天体を詳細に研究すると、分からないことが見えてくることです。
地球と一番近い恒星の太陽ですら謎だらけです。
※プレスネット2019年5月30日号に加筆修正
過去の「広島大学の若手研究者」はコチラ
2020年11月25日
【広島大学の若手研究者】ゲノムに残された爪痕から進化の歴史を解き明かす
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学ゲノム編集イノベーションセンター助教
下出 紗弓 さん
研究テーマは内在性レトロウイルス
新型コロナウイルスのように、ウイルスには悪者のイメージがつきまといます。
しかし、地球上には多くのウイルスが存在し、生物の進化にも貢献するものもあります。
そのことを知り、ウイルスに対する世界観が変わったことが進化にかかわるウイルス研究のきっかけでした。
ウイルスが増殖するためには宿主細胞に侵入し、宿主細胞のシステムを利用しなければなりません。
なかでもレトロウイルスは自身の遺伝情報を宿主細胞のゲノム(設計図)に忍ばせることができる特殊なウイルス。
ごくまれにですが、レトロウイルスが宿主の生殖細胞に入り込み、いつのまにか宿主の設計図の一部として子孫へと伝わっていくことがあります。
宿主の設計図の内部に存在することから「内在性レトロウイルス」と呼ばれ、一般的に活性化しない無害なウイルスです。
イエネコは約1万年前に中東で家畜化されたと言われています。
しかし、その後どのように世界各地を移動し、各品種が作られたのか詳細は分かっていません。
内在性レトロウイルスは、いつのまにか我々の中に入り込み子孫へと伝わるという特徴を持っています。
そこで、イエネコが家畜化され、世界各地に拡がるなかで、どの段階でどんなウイルスが入り込んだのかを調べることで、イエネコの移動歴を明らかにすることにしました。
さまざまな品種のネコのゲノムDNAを調べた結果、すべてのイエネコがRDRSC2aというウイルスを保有しており、すべてのイエネコの祖先は同じということが分かりました。
さらに調べると、欧米のネコの約半数は、RDRSC2aに加えて別のレトロウイルスを保有していましたが、アジアでは約4%のみでした。
こうしたことから中東で家畜化されたイエネコのうち、欧米へと向かったもののみにRDRSC2aとは別のレトロウイルスが新たに入り込んでいることが分かりました。
ゲノムを調べることで何百万年も前の進化の歴史が分かります。
身近なネコが進化の歴史の痕跡と共に生きていると思うと、ロマンを感じますね。
研究の世界では、思いがけず世界中の誰も知らない事実を発見することがあります。その瞬間は何にも代えることができません。
心掛けているのは、常に楽しさを忘れず広い視野でものごとをみることです。
すべてのイエネコが保有するRDRSC2aですが、トラなどの大きなネコ科動物は保有していないことが分かりました。
内在性レトロウイルスのなかには、宿主の姿を変化させ、進化に貢献してきたものもあります。
今回発見したRDRSC2aが、イエネコ特有の猫なで声やおとなしい性格など、家畜化されるうえで利点となった特徴にかかわっているのか、今研究しているところです。
※プレスネット2020年11月26日号より掲載
過去の「広島大学の若手研究者」はコチラ
2020年11月23日
【体験談】学部1年生で研究室訪問ってアリ?アポ取りの仕方と当日の流れを解説!
初めまして、GAKUPOTA広大1年生ライターよねです!
今回は私が大学に入って魅力を感じた「大学教授にアポを取って話を聞くメリット」についてお話しします!
今回この記事を読んだ後に是非とも実践してみてください!
「まず何のために大学教授に話を聞くのか」が決まっていないと話を聞こうとも思えませんね。
確かに誰かに進められたり、この先生の授業面白いと言った「きっかけ」がないと動き出せないと思うのが普通です。
ですが、私自身がそれまでに話したことのない教授のもとを訪れてみて思ったことは、そうではありませんでした。
というのも、私にとって大学教授のもとを訪れる一番の理由は「なぜ」「どうやって」という興味を持つ機会を作るためだからです。
え?どういうこと?
より具体的に言い換えると、自分が経験するには莫大な時間がかかってしまう事について、「自分達よりもそれぞれの分野を知り尽くしている大学教授達」から話を聞くことで短時間で体感でき、自分の興味の幅を広げられるということです。
ですから、私自信「今まで漠然と興味があったもののその分野のどこに魅力を見出したらよいのか分からないもの」に出会ったときに大学教授のもとを訪れていました!
私の場合は、
「自分の将来したい研究の難易度を現研究者に聞かせてもらうこと」
「自分の興味がある大学発ベンチャーのための仕組みを知ること」
を目的にお話をお聞きしに行きました。
私の場合は少し独特ですが、皆さん自身の興味から外れないものを研究している先生のもとを訪れていただければ楽しみを見つけることが出来ると思います。
3、4年生の場合は、卒論のテーマを決める際に、自分の研究室だけでなく興味のある分野について他の研究室の教授方とお話することで有益な情報が得られると思います!
教授陣は学生が思っているよりも積極的に相談を受け付けてくれます。
私自身、失礼ながら大学に入学する前は「大学教授は人間味が無くて自分の研究以外は興味ない生き物」だと思っていました(笑)
しかしその予想は全く違いました。
自分の研究を一番だと思っていることにはあながち間違いとは言えないのですが、その研究を気に入っているがゆえに周りの人に面白さを伝えたくてうずうずしている、そんな可愛い一面も持っていて人間味に溢れているのだなと感じました。
また、学部1年生だと高学年の学生よりもさらに喜んで受けていただける事が多いように感じます。
それは「新入生の意欲がメールからも感じられること」や「早くから自分の研究に興味を持ってくれる学生が存在することは大学教授にとって嬉しいから」だと考えられます。
少し本題とは逸れますが、大学教授の人間性については、東京大学の物理学専攻教授である長谷川 修司先生が「研究者としてうまくやっていくには 組織の力を研究に活かす」で紹介しています。
私は物理学関連の研究者ですが、物理学の分野に限らず「研究者」というと、だいたい次のようなイメージを一般の人はお持ちではないでしょうか。(中略)
研究者は、研究室や実験室に閉じこもってひとり黙々と研究に没頭し、自分の専門分野のことは世界一良く知っているが、世間一般の事情にはまったく疎く、世間話などしないし興味もない。理屈っぽく、筋が通らなければほんのささいなことでも嚙みついてくるような、バランスの悪い人間。(中略)
こういったイメージは、実のところ、大きく外れています。(中略)
本書は、こうした誤解を解いて、高校生や大学生、大学院生のみなさんに、怖がらずに安心して研究者を目指してもらいたいという思いをこめて書いています。
研究者としてうまくやっていくには 組織の力を研究に活かす (ブルーバックス)
研究者を目指す学生だけでなく、大学教授と良い関係性を築いていく為に参考になる書籍です。ぜひとも読んでみてください。
私はメールで数件のやりとりを交わしてアポを取りました。
注意点なのですが、メールを送るときは必ず大学のメールアドレスで行いましょう!
個人のメールアドレスは失礼に当たるので注意してください!
授業を取っている先生であればTeams等でも良いかもしれませんね。
ともかく電話をする必要はないので比較的気軽に行動できると思います!
でもさ、そもそも先生のメアドを知らないんだけど、、
そんな時は「広島大学 ~先生」という風にネットで検索をかけ、出てくる広島大学メール(〜@hiroshima-u.ac.jp)にメールしてみてください!
すると「広島大学 研究者総覧」が出てくるので、そこにメールアドレスが書いてあります!
↓越智学長の場合↓
それでも見つからない場合はチューターの先生に相談してみると良いですね!
授業を受けているならば、「~先生の~という授業を受け、先生の~についての研究に興味を持ちました」など、初めてであれば長くなり過ぎない程度に自分の情報である「出身学部」「出身県」「将来の夢」などを書くと良いでしょう。
もしも皆さんが自身の趣味について話すとき、相手が初対面の場合は趣味について終始喋り通すことは難しいですよね?
あなたがどんな人(学生)なのかを伝えておくことが大事です。
まずお互いの共通の会話のネタがあってそこを深めてから本題に移るという過程を踏むはずです!なのでこちらからそのためのネタ提供をしておくと良いですよ~というアドバイスでした!
当日は教授と約束した時間に余裕を持ってその場に着くように準備しましょう!
なお研究室に行くので、教授がいきなりその日に忙しくなったり、生徒の指導にあたっている最中であったりすることがあるので、そういう待ち時間がある事も考慮して隙間時間に行えるものを携えていくのもコツかもしれません。
実際私がある研究室にお邪魔したときは教授が学生ににダメ出し(ご指導)をしていたのでおどおどしていたのも思い出です(笑)
他にも定刻よりも早く会議が始まってしまって予想だにしない遅刻をしてしまったことも、、
ともかく定刻に遅れないように行けばウェルカムに受け入れてくれるので安心して行ってきてください!
広島大学には私たちでも知っているテレビ番組に出演している先生もおられます。
例えば…
フジテレビ「ホンマでっか!?TV」にご出演なさっている、「スヌーピー先生」こと「杉浦義典先生」は、これから私もお話を伺ってみたいと思っています。
きっかけは有名人の先生に会えるせっかくの機会だから行ってみようというのでも良いと思います!誠実に学ぼうという姿勢があれば、興味の視野が広がる機会になるでしょう。やはり気軽に行ってみるのが良きです!
また「どんなことを研究している先生がいるのかな?」と思う場合は、広島大学のホームページで先生方のインタビューを読むと参考になります。
・「グローバルキャリアデザインセンター若手研究人材養成」→「先生の流儀」
・HU-plus
・研究者インタビュー「研究NOW」
他にもこのGAKUPOTAでもたくさんの先生の研究を紹介していますよ!!
記事だけではもの足りないと思った時にはアポを取って先生方のお話を直接に伺っているかもしれませんし!その状況になれば占めたものです!
過去の記事にない面白い先生方にどんどんアプローチしていってください!私も負けじと色々な先生方のお話を聞いていこうと思います!
今は研究に興味が無いと思っている人も、考えが変わるきっかけがあるかもしれません!
新しい発見のためにも少し腰を浮かせて進んでみましょう!
この記事によって皆さんの背中を押すことが出来たならばこの上ない喜びです!
これからの皆様のも、もちろん自分自身にも期待しています!
また次の記事でお会いしましょう! さようなら~
〜〜〜オススメ記事!〜〜〜
2020年10月27日
【広島大学の若手研究者】人の感性に基づいたモノづくり
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学大学院先進理工系科学研究科助教
木下 拓矢 さん
センサー技術が発達した現代では、モノを動かすための、機械の電流・電圧の運転情報から原料投入量まで、あらゆる膨大なデータが瞬時に収集可能になりました。
そのデータベースを基盤に、効率よくモノを動かすためには、どのようにデータを抽出して、どう処理すればいいのか。
昔ながらの人の熟練技術に頼るのではなく、デジタルで超情報化社会に合わせた、新しい制御(コントロール)のためのアルゴリズム(数式処理の手順)を導入することで、機械の立ち上げ時間の短縮や、人に依存しない製造システムの構築などを実現する研究に取り組んでいます。
少しかみくだいて説明すると、お好み焼きを焼く鉄板温度は、時間をかければ熟練者の技術で100度にすることができます。その温度を制御アルゴリズムで短時間に100度にしようということです。
近年、取り組んでいる研究です。これまでのモノづくりは、経済性を重視した結果、モノはあふれてストレスが生じる社会となっていました。
例えば、思い通りに車を操作できないなどです。感性を可視化して、モノが人の心を考える製品をつくりましょう、という研究です。
実用化を目指し、数社の企業と共同研究に取り組んでいます。
コベルコ建機(本社・広島県)さまとは、人の感性を踏まえた油圧ショベルの研究を進めています。
機体の扱いに慣れている人とそうでない人で受けるストレスが変わってきます。
つまり慣れている人は、動きが遅いと感じるでしょうし、初心者であれば怖いという感情が先立つでしょう。
広島大学では、医工連携をし、医学部が開発した脳波計を用いて感性を検知し、速度の制御アルゴリズムを導入して、その人に適した速度に自動調整される新型機の開発を目指しています。
モノに付加価値を与えるデジタル分野だということでしょう。例えば10年前の車と今の車で何が違うのか。
動くこと自体は変わりませんが、制御の導入で走行性能・燃費効率の向上に貢献しています。まさに制御は縁の下の力持ちです。
数式処理の手順を一つ変えることで、モノの動きが全く別になる。制御の醍醐味ですね。
研究者には論文で理論を構築していくことは大切ですが、私自身は研究が目に見える形で実用化されていくことにやりがいを感じています。
今、さまざまな企業と連携させてもらっていますが、今後も企業との連携を深め、さまざまな製品の開発をお手伝いできたらな、と考えています。
もう一つ、制御の魅力を伝え、認知度を高めることも役割かなと。制御の本質を知っている人は少ないのが現状です。多種多様な分野に応用できるのが制御の面白さ。
「考え続けること」を心に留めながら、社会に還元できる研究を続けたいと願っています。
※プレスネット2020年10月29日号より掲載
過去の「広島大学の若手研究者」はコチラ
2020年9月27日
【広島大学の若手研究者】電子工学分野の次世代技術
広島大学の若手研究者に着目し、その研究内容についてインタビューしました!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大放射光科学研究センター助教
宮本幸治さん
研究テーマは「電子が持つ電荷とスピンの解析」
スピントロニクスは電子が持つ電荷とスピン(自転)の両方の特性を電子工学の分野に応用した次世代技術のことをいいます。
スピントロニクスは、電荷とスピンの両方を一緒に制御することで、ハードディスクとメモリー双方の良いところを利用した、省エネルギーのキーテクノロジー創出への貢献が期待されています。
換言すれば、スピントロ二クスが普及すれば、今のスーパーコンピューターが、個人用パソコンのレベルまで落とし込めるようになるということです。
僕の研究は、そのスピンをキーワードにした内容です。絶縁体は見方を変えると2種類に分類されます。
電気を通さない絶縁体と、トポロジカル絶縁体のように、内部は絶 縁体ながらも表面は金属状態にある特殊な絶縁体です。
トポロジカル絶縁体は、磁力の源となるスピンをそろえ、表面電子が超高速で運動していると言われていましたが、性質の詳細は未解明で、その性質を実際に実験で観測することができました。
つまり、トポロジカル絶縁体が、スピントロニクスの材料になりえることが証明できたのです。
僕一人では研究はできません。研究仲間との連携や家族の支えがあって、ここまで研究を続けてくることができました。チームプレーで受賞したものだと思っています。
広島大学には、国立大では唯一の放射光を扱う研究施設があったのと、せっかくならオリジナリティーの研究がやりたいという思いを持っていたのが、現在の研究にたどりつく大きなきっかけになりました。
研究は、電子とスピンの動きを可視化する装置をつくることから始まりました。装置づくりは試行錯誤の連続で、初号機は完成までに7年を要しました。
ですから装置ができて、ちゃんと計測できたときの達成感はひとしおですね。
余談ですが、放射光を使用してスピンを観測できる装置は、日本では広島大学にしかありません。
ただ、現在の装置では、スピンの測定は、電子の測定に比べ100倍の時間を要します。研究効率が悪く、時間を10倍程度に短縮できる装置を開発するのが夢です。
研究は、未知な領域に踏み込みながら、自分のアプローチで実験データを読み取り、新しい結論を導き出していきます。その一連の考える作業が研究の醍醐味です。
※プレスネット2018年12月6日号より
2020年9月21日
【広島大学の若手研究者】40億年以上前の隕石衝突を発見!
広島大学の若手研究者に着目し、その研究内容についてインタビューしました!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大大学院先進理工系科学研究科助教
小池 みずほさんです。
研究テーマは地球惑星科学🌏
地球をはじめとする太陽系の惑星形成は45億年前までにほぼ完了しました。
その形成の初期の約44億~41億年前に、惑星には大量の隕石衝突の可能性があったことが、小惑星(ベスタ)から来た隕石の年代測定から分かりました。
従来は、誕生から6~7億年後の約39億年前に地球や月に大量の隕石が衝突したと推測されてきました(後期重爆撃説)。米国のアポロ計画で採取された「月の石」の年代測定などを基にしていました。
しかし、その時期に地球や他の惑星に隕石が衝突した証拠はなく、惑星軌道の計算結果などとの矛盾もあり、50年にわたり論争が続いていました。今回の発見は太陽系初期の歴史を書き直すことになるかもしれません。
地球で見つかった、火星と木星の間を回る直径約500kmのベスタから飛来したと思われる隕石を分析しました。隕石のリン酸塩化合物の中にわずかに含まれるウランが、時間の経過とともに壊れて鉛になっていく性質を利用。
微量元素を測る特殊な装置を用いて、ウランと鉛の存在比から100分の1mmの世界を解析、ベスタに隕石が衝突してからの時間を推定しました。
隕石は「宇宙からの手紙」ともいわれています。分析できたときは、見た目は何の変哲もない、ただの石ころが、45億年前の情報を残していることに感動しました。
左:研究に用いた隕石の写真
右:隕石の分析をした実験装置(東京大学大気海洋研究所の「ナノシムス」)
小さいときから宇宙が好きで、親にせがんでは天文台に連れて行ってもらっていました。
大学では、地球科学や宇宙物理を学びました。
その中で光の波長など遠い宇宙の観測よりも手元にモノがある、近い宇宙の世界を見詰めてみたい思いに駆られ、大学院から隕石の研究を始めました。
普通に生活をしていると、何十億年前とか何十億年先とかのことを考えることはないですよね。
でも、研究をしていると当たり前のように、その時代の世界を想像し、現実には見えない世界なのに、その時代にアプローチすることができます。
今回の研究の成果は、地球史とも大きく関係してきます。
地球に生命が誕生したのは39億年よりも前ですが、その時代に後期重爆撃説が正しければ、地球最古の生き物は、大量の隕石のシャワーを振り払って生き延びないといけませんから、生き物が生き抜くには矛盾点も指摘されていました。
もし、隕石の衝突がさかのぼれれば、隕石衝突後の静かな時代に生命が誕生したことになりますから、その問題をクリアすることができます。
ただ、あくまでベスタの隕石からの分析。
仮説を立証していくためには、もっと多くの惑星や小惑星を調べる必要があります。
研究を深めながら、いずれは太陽系の惑星の誕生と進化を調べていきたいと思っています。
プレスネット2020年9月24日号より掲載
過去の「広島大学の若手研究者」はコチラ
2020年8月27日
【広島大学の若手研究者】研究成果、スポーツ現場に反映を
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学大学院人間社会科学研究科 助教
柳岡 拓磨 さん
研究テーマはスポーツ科学
ヒトが運動を行う際には、適切な体温が存在します。体温が過度に上昇・低下した状態でスポーツを行うと、選手のパフォーマンスが低下するだけではなく、熱中症やスポーツ外傷のリスクが上昇します。
暑熱環境から寒冷環境下まで、選手の安全を確保し、選手が望むようなパフォーマンスを発揮できるようにするため、体温調節に着目して研究を進めています。
夏には、体温の過度な上昇を抑制する方法として、身体冷却(送風や保冷剤などを用いて身体外部から冷却を行う方法)と内部冷却(冷たい飲料を摂取し、身体内部から冷却する方法)があります。
人間社会科学研究科の長谷川教授に協力を得ながら、身体外部・内部冷却を組み合わせた実用的な暑さ対策を検討しています。
これまでの研究で、運動間の休息中(サッカーのハーフタイムを想定)に、クーリングベストの着用とアイススラリー(氷と飲料水が混合したシャーベット状の飲料)の摂取を行うことで、体温を低下させ、運動パフォーマンスを改善できることが分かりました。
ハーフタイムでの身体冷却の実践
実用性・効率性の高い暑さ対策を提案できたことは価値が高いと考えています。
冬には、筋肉の温度(筋温)の低下を抑制することが重要です。サッカーで例を挙げると、ハーフタイムの15分間で筋温は安静時とほぼ同程度まで減少し、後半開始後のパフォーマンスも著しく低下します。
ハーフタイム中に改めてウォーミングアップを行うこと(リウォームアップ)によって、この問題を解決できるか、検証を進めています。
スポーツ現場での実用を想定すると、最短の時間で最大の効果を得る方法を検討する必要があり、1分以内で効果の高い方法に着目しています。
体温調節には体格に基づく個人差があり、気温によって、体温が上がりやすい体格が異なります。
実験中の運動の様子
これからの研究では、気温・体格・身体冷却という3つのキーワードをもとに、熱中症のリスクが高い集団に対し、効果・実用性の高い暑さ対策を明らかにしていきます。
スポーツに携わる中で生まれてきた疑問や好奇心を解決していく道筋やその難しさが面白く、他の研究者と議論しながら、答えに辿り着けたときに研究の醍醐味を感じます。
世界のスポーツ界の常識は、日本のスポーツ界の非常識という状況がまだまだありますので、インパクトのある研究から、この問題の改善に貢献していきたいと思っています。
※プレスネット2020年8月27日号より掲載
過去の「広島大学の若手研究者」はコチラ
2020年7月30日
【広島大学の若手研究者】尾道市の野良猫の生息状況を調査
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大大学院統合生命科学研究科助教
妹尾 あいら さん
研究テーマは動物福祉
小学生のときに三原市の広島県動物愛護センターから譲り受けた猫を飼っていました。わが家でその猫を引き取らなかったら殺処分されていたことを知り、野良猫について勉強をしたいと思ったのが動物福祉の研究を始めた大きなきっかけです。
尾道市は「猫の街」でも知られ、多くの野良猫が観光エリアに住みついています。野良猫の現状を知りたい思いに駆られ、週2回尾道に通い続け、4年間にわたって野良猫の生息状況について調査を続けました。
その結果、尾道の観光エリアには約200頭が生息していることが分かりました。
しかし、半数の猫は健康状態が悪く、1~2年経つと多くの猫の姿を見かけなくなりました。おそらく病気で亡くなったのでしょう。
もう一つ分かったのは、不妊去勢手術をしていない猫がほとんどだったこと。亡くなる一方で繫殖もしますから、200頭という数字には変わりなく、生まれた猫も病気で亡くなる運命をたどる可能性があります。
県の動物愛護センターと協力し、野良猫を捕獲して不妊去勢手術を行い、元の場所に戻すTNR活動に取り組みました。その後の調査から、生まれてくる猫の数は減っていました。
また、住民が猫の管理をする地域猫活動も行われるようになったおかげで猫の健康状態も向上しました。
研究では、地域の住環境の面からもアプローチしました。尾道はお寺が多く、野良猫の糞尿被害に困っていたからです。猫が嫌がる忌避剤を企業と共同開発したり、プランターで猫用の公衆トイレを作ったりしました。
忌避剤を活用しながら野良猫をトイレに誘導できるか試したところ、多くの猫がトイレを使っており、糞尿被害を軽減させることが立証できました。
猫は、もともと野生動物のヤマネコを人間が家畜化した伴侶動物です。つまり人間が面倒を見ないといけません。野良猫の状態であっても人の手が介入することが大切。
猫も人も同じ生き物なので、思いやりの気持ちを持って猫に接することが共生につながりますし、動物福祉の考えからでもあります。
尾道市に限らず、広島県内のさまざまな地域の野良猫の状況について掘り下げてみたいと思っています。実は東広島市は動物愛護センターに持ち込まれる猫が最も多く、東広島でも調査をしたいと考えています。
猫以外ではイノシシの研究にも関わっています。呉市ではイノシシが無人島に泳いで渡り、繁殖を続けています、生息調査をしながら、なぜイノシシが泳いで渡るのか、という疑問を解明したいと思っています。
※プレスネット2020年7月30日号より掲載
過去の「広島大学の若手研究者」はコチラ
2020年6月25日
【広島大学の若手研究者】社会とつながる研究にやりがい
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学大学院先進理工系科学研究科助教
清家 美帆 さん
研究テーマはトンネル内火災時での避難者の挙動解明
日本のトンネルの多さは世界一です。道路トンネルだけで1万本あります。高速道路では、500m以上のト500本を超えます。EU(欧州連合)加盟国のうちの十数カ国のトンネルを足した数に匹敵します。
トンネル内で火災が起きた場合の国際基準が厳格化する中、日本でもリスク解析が求められています。トンネル内での避難者の挙動も明らかにされていません。
安全性を数値化することで、非常用設備の設置など安全対策に役立てられれば、と研究を始めました。
閉ざされたトンネル内で火災が発生すると、天井の照明は濃い煙で覆われ、避難者は真っ暗な中を避難しなければなりません。
そのときの避難者の移動速度や避難挙動の軌跡を調べてきました。現在は煙濃度と避難移動速度との関係や煙中でのストレスと移動速度との関係について研究を続けています。
長さ400mの以前使用されていたトンネルを用い、車に見立てた障害物を配置して、実験を実施しました。
避難行動では、トンネル内の白線を頼りに移動する被験者が多くみられました。
避難速度は歩く人もいれば、セミ-ジョギングのように走る人もいました。興味深かったのは、走る人は煙濃度の影響を大きく受け、薄い煙中である程度走れていたのが、煙が濃くなると普通に歩く速度よりも遅くなっていたことです。
トンネルは長さ方向に避難者が点在します。避難速度が速い人は、火災現場から遠い位置に存在する他の避難者に情報伝達する役割があります。
したがって、この避難速度と煙濃度の関係は、精度の高い安全性評価に重要であることがわかりました。
解析結果を客観的に見ることです。主観的に見ていると、何が問題なのか分からなくなることがあります。
そのため、調査結果が出たときには、数日置いてみて、もう一度考察するよう心掛けています。
直接、社会とつながっていることです。人の安全を守る研究をしているという点では、重たいものを感じますし、やりがいもあります。精度の高いリスク評価ができるよう研究を積み重ね、社会に還元していきたいと思っています。
トンネル火災はもちろん、地下鉄や地階売り場など地下空間での火災時など、幅広い分野での避難研究のプロフェッショナルになりたいです。
※プレスネット2020年6月25日号より掲載
過去の「広島大学の若手研究者」はコチラ
2020年5月28日
【広島大学の若手研究者】「日本鶏の研究価値を高めたい」
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
大学院統合生命科学科学研究科研究員
竹之内 惇 さん
専門は家畜育種遺伝学。東広島ブランド地鶏開発担う
広島大が設置している日本鶏資源開発プロジェクト研究センターでは、日本固有のニワトリ品種の「日本鶏」を30品種以上、約2000羽を飼育し、教職員や学生たちが毎日世話をしています。国内有数のニワトリの研究施設として知られ、僕の所属する研究室では、これまで、肉質や卵質、羽装色など日本鶏品種の特性や遺伝子などについて研究を行ってきました。
広島大が保有するニワトリを掛け合わせて作り出された「広大鶏」
そこで、これらの知識を生かして、黒毛和牛に匹敵するような、オリジナルの最高品質の新たなニワトリを生み出せないかと、広島大が保有するニワトリを掛け合わせて研究開発を進めてきました。作り出されたニワトリを広大鶏と名付け、大学発のニワトリ鶏種の作出に挑戦してきました。
広島県には、農林水産規格(JAS)が定める「JAS地鶏」が存在しません。こうした中、「広大鶏を種鶏に、東広島ブランド地鶏を」と、2018年に産学官が連携したプロジェクトが始まりました。
広大鶏と、多くの卵を産むロードアイランドレッドを掛け合わせ、肉のうまさと生産性に優れた地鶏の開発に取り組んでいます。
これまで、数多くの試食会や飲食店でのモニター会を通じて評価も得ていますが、今後は、酒かすやかき殻など東広島の特産品を飼料として与えるなど工夫を持たせ、東広島の特色を生かした地鶏の開発を目指します。
農家や飲食店などと議論を重ね、20年度中には生産・販売の体制を整え、令和3年春の商品化を目指しています。
広大鶏を用いれば、地域の特産品を生み出すことができます。ただ、広大鶏がいなくなると、地鶏を大量生産することはできません。大学はあくまで研究する場所ですから、大学発のベンチャー企業を立ち上げて、広大鶏をしっかり育て守っていく必要があります。僕はその役割を担っています。
家畜育種遺伝学研究室のメンバー
もう一つは、広大鶏の資源を守っていくこと。養鶏産業が安定的な生産を続けるためには、「病気による死滅」や「近縁な個体同士の交配」を避ける必要があります。動物の細胞保存の研究に取り組んでいる研究室の先生の力を借りながら、そのリスクに対応していきたいと思っています。
子どもの頃から鳥類が好きで、山口大獣医学部で学んでいた大学2年のとき、広島大の都築政起教授と出会い、「日本鶏の研究は面白いぞ」と声を掛けていただいたことです。
僕の現在のスタンスは、研究よりも実業に重きを置いていますが、学外と積極的に関わりながら、研究との距離も離れないようにと思っています。
今は、大学の取り組みや日本鶏のことを広く知ってもらって、日本鶏が和牛のように研究的価値や産業的価値が高まるようにしたいと思っています。そのためには、まず全国に誇れる東広島ブランド地鶏をつくっていくことです。
※プレスネット2020年5月28日号より掲載
過去の「広島大学の若手研究者」はコチラ