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【広島大学の若手研究者】悩みを抱える子どもたちをどう支えるか

2023年4月24日

【広島大学の若手研究者】悩みを抱える子どもたちをどう支えるか

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院人間社会科学研究科 教職開発専攻 講師
山崎 茜さん

山崎 茜さん

悩みを抱える子どもたちをどう支えるか

子どもの心理・社会的成長・発達を教育で支え
「自分の未来は明るい」と思える社会人に

■少年犯罪が問題となった90年代

 私が中学・高校生の90年代、同年代の子どもたちによる犯罪がニュースになり、身の回りではいじめや不登校が問題となっていました。そのときに感じたのが、その子のことを周りの人が分かってあげていたら結果は変わっていたのではないか、それならどう理解してどのように支えられるだろうか、そんな疑問が今の研究のきっかけです。

児童福祉施設に併設されている学校へ支援に
児童福祉施設に併設されている学校へ支援に

■子どもたちをどう支えるか

 大学は教員養成コースに進みましたが、関心の中心は子どもたちをどう支えるかでした。現在の主な研究テーマも、子どもの心理・社会的成長・発達をどのように教育で支えていくか、です。これから教員になる学生、教員に対して、子どもたちの心理的な成長を支えるために対人関係の発達を支援する目的や意味、子どもたちとのかかわり方を教えています。スクールカウンセラーとして、子どもや保護者、先生にアドバイスもしています。

■関係修復が苦手な子どもたち

 地域のつながりが希薄化し、社会のコミュニケーションが変化。子どもたちのコミュニケーション能力、対人関係力が低下しています。コロナ禍で拍車がかかりました。

 例えば、学校で手をあげて発表したとき、「みんなに変に思われたかな」と一人で悶々(もんもん)と考えてマイナスな考えが膨らんで傷ついていたり。ケンカもデジタルでする時代。嫌なことがあれば「友達」という項目のチェックを外してつながらないようにしたり、シャットダウンして終わりにします。関係性を修復したり、ぶつかったりすることを苦手とする子どもが増えています。小さないさかいの段階で、周りから注意されたりアドバイスを受けたりして関係を修復した経験がなく、人間関係力をつける機会が失われています。

教員やスクールカウンセラー等を対象とした学会の支部主催の研修会
教員やスクールカウンセラー等を対象とした学会の支部主催の研修会

■「困っている」と言える器を

 子どもの人間関係力の発達、心理的な発達には、周囲の人との関係が豊かにあることがすごく大事です。昨年から東広島市と連携してヤングケアラーの研究をしている中で、自分の困り感を出せない子どもたちがたくさんいることが分かりました。「困っている」と言える居場所や器が必要です。そして「言っても分かってもらえない」という子どもの諦めが取り除かれることも重要です。豊かな人間関係をもち、自分の心を打ち明けやすい社会になるといいなと思います。

 地域で心配な子どもを見かけたら、あいさつでいいので声をかけてやってください。「あなたを気にしている大人がいる」ということが伝わるかかわりをお願いします。

■教育は社会を変えられる

 これまでかかわった子どもや研修した教員、指導した学生たちが、自分の未来は明るいと感じて元気になったり、成長していく姿を見たりするとうれしいです。教育は社会を変えられる。子どもたちへの支援を通じて、子どもたちがいい社会人になってくれることを目指しています。

PROFILE
広島市出身。広島大学大学院教育学研究科博士後期課程へ。在学中にスクールカウンセラーを始める。修了後、同大学内の学校心理教育支援室「にこにこルーム」の非常勤教員。2019年度から現職。

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2023年3月27日

【広島大学の若手研究者】研究分野は文化財学

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院人間社会科学研究科助教
中村 泰朗さん

中村 泰朗さん

研究分野は文化財学

中世から近世の建築物を復元
建物から歴史の深淵や為政者の思い考察

■文化財学

 歴史を当時の日記や手紙など文字から解き明かしていく学問を文献史学といいます。僕の研究は文化財学という領域で、現地に赴いて建築物の痕跡や現存する古建築を調べたり、図面や写真などから建築物の構造を考察したりしながら、歴史をひもといています。子どものときから歴史が好きだったことが、この研究に進むきっかけになりました。

 中世から近世にかけての大名邸や城郭に築かれた天守、社寺建築の構造について考察を行い、建物が語る歴史的な深淵や背景、為政者の思いなどに迫っています。

現地に赴き古建築物を調査
現地に赴き古建築物を調査

■天下人の城郭建築

 織田信長の安土城、豊臣秀吉の大坂城、徳川家の江戸城について、詳細な復元図を作成し、同じスケールのペーパークラフトで城郭の建物を復元しました。

 安土城と江戸城は現地に残された石垣や発掘調査で見つかった柱の痕跡、大坂城は城が描かれた屏風(びょうぶ)絵や、残されていた1階の平面図などをそれぞれ考察しながら、併せて文献資料を読解し、復元図を引きました。

 信長については革命家の一面がフューチャーされがちですが、実は古い伝統も大切にしていた側面も、復元したことで見えてきました。安土城の天守は斬新ですが、御殿は室町時代の将軍家の伝統的な手法にのっとっていたからです。

 秀吉については、壁に施したきらびやかな彫刻などから、自らの権力と財力を見せつけることで、「秀吉にはかなわない」ことを他の大名にみせつけるために、派手な大坂城を建立したことがうかがえました。徳川3代将軍の家光が建立した江戸城は、安土城や大坂城と比べサイズが大きく、圧倒的な存在感で大名たちを威圧していたことが考察できました。

■消えゆく文化財を憂う

 これまで20~30軒の建物について復元図を引きました。このうち、愛知県の西尾城と岡山城は、僕の復元図をもとに建物が整備されました。自分の研究成果が社会に還元されるのはうれしい限りですが、半面、指定文化財であっても、価値が周知されないまま朽ちていく建造物が多いのも事実です。

 こうしたことを踏まえ、地域の文化財を学生と一緒に調査研究し、その価値を実証。行政に働きかけながら地域の文化財の保全につなげていくことに、今後力を注ぎたいと思っています。地域の建造物でいうと、今、小早川隆景が建てた三原城の価値に注目、研究を進めています。御殿の姿が面白く、安土桃山時代の建物の歴史観がひっくり返るものと思っています。

復元図をもとに製作した大坂城のペーパークラフト
復元図をもとに製作した大坂城のペーパークラフト

■視野を閉じ過ぎない

 研究で心掛けていることです。文化財学は文系・理系双方のさまざまな知識が要求されます。ある側面からの考察に集中し過ぎると、他の情報をシャットアウトすることにもなります。さまざまな角度から俯瞰(ふかん)することは意識しています。

PROFILE
1989年、山口県生まれ。広島大文学部卒。広島大大学院文学研究科博士課程後期修了。2017年4月、八戸工業高専助教。20年4月から現職。

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2023年2月20日

【広島大学の若手研究者】研究テーマは社会心理学

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院人間社会科学研究科准教授
小宮 あすかさん

小宮あすかさん

研究テーマは社会心理学

後悔は学習を促進する機能を持つ
心の謎を解き明かしたい

■きっかけ

 高校生の頃、ピアノを習っていた先生が、レッスン中に「北京ダッグが食べたい」と言ったかと思うと、その週には中国まで食べに行かれるほど豪快な人で、「この人の心はどうなっているのだろう」と思ったことが、心理学の道に進むきっかけになりました。

■心理学とは

 心理学は心の仕組みや、心と行動の関連を理解しようとする学問です。現在の心理学は、実験や調査で集めたデータから心の在り方を推測し理解しようとする科学的なアプローチが主流です。私はその中でも後悔をテーマに研究を進めてきました。

■後悔の日米比較

 後悔は大学院時代から取り組んでいるテーマです。過去のことを悔やんでも何も変わりません。それでもなぜ人は後悔するのだろうか、ということに、興味を引かれました。
 具体的な研究としては、後悔の日米比較研究が挙げられます。例えば、人生で経験した後悔を日米の大学生に挙げてもらうと、その内容は日本と米国で少し違います。自分だけに関わるような個人的な後悔では、日本人も米国人も「チャンスを逃してしまった」「もっと勉強すればよかった」といった自己実現に関するものが多くみられます。一方で、「人を傷つけてしまった」「手助けできなかった」というような対人的な後悔では、日本人のほうが米国人よりも強く後悔し、引きずります。
 これらの後悔経験のパターンは、日本人が人と人との社会的な関係性を大事にする文化に住んでいることに由来すると考えています。そうした文化では対人的な失敗が周囲との関係の悪化や居心地の悪さにつながりやすいので、もう二度と失敗しないように、後悔して反省する傾向があるのでは、というのが私の持っている仮説です。

心理学実験の様子
心理学実験の様子
実験に使う発汗などの生理指標を測定する機械
実験に使う発汗などの生理指標を測定する機械。実験に参加している人がドキドキしていることがわかる

■後悔は教訓に

 実際、これまで多くの研究で後悔は教訓となり、行動の改善を促進することが示されてきています。例えば、試験で悪い成績をとったことを後悔している学生ほど、その後の学習習慣が改善され、さらに試験で良い成績をとるようになったことを示すような研究もあります。私の研究でいえば、2018年の西日本豪雨災害後に、被災者にアンケートをしたところ、豪雨災害時に「防災準備をしておけばよかった」と後悔していた人ほど、その後の災害時に防災行動をとっていたことがわかりました。

■研究のだいご味と難しさ

 心理学は調査や実験が主な研究手法ですが、その中でも私は実験が大好きです。だいご味は、実験がうまくいって、思い通りの結果が出ることですし、難しいことは、細心の注意を払って実験がうまくいくように考えないといけないことです。

■これからの夢

 研究をすればするほど謎は増えていきます。心の謎を解き明かす研究を続けていきたい、と思っています。ゆくゆくは社会に直接還元できるような実践的な研究もしていきたいと思っています。

PROFILE
東京都の桜蔭学園中・高卒。京都大学教育学部卒。同大学大学院教育学研究科博士課程修了。2011年~13年神戸大学大学院人文学研究科特命助教。日本学術振興会特別研究員(ヴァージニア大学)、高知工科大学総合研究所助教を経て、2016年から現職

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2023年1月23日

【広島大学の若手研究者】研究分野はトポロジー(位相幾何学)

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院先進理工系科学研究科准教授
小鳥居 祐香さん

小鳥居さん1

研究分野はトポロジー(位相幾何学)

絵(形)を数学に置き換え数式を考察
研究内容、外部に積極発信

■研究のきっかけ

 子どものころは絵を描くことが大好きで、将来は画家になることが夢でした。それとは別に、算数や数学が好きで、大学3年生のときに、絵がたくさん出てくるトポロジーという分野の数学に出合ったのが、研究に取り組むきっかけになりました。

■トポロジーとは

 数学は、代数学、解析学、幾何学の分野に大別されます。トポロジーは、モノの形(図形)を扱う幾何学の一つで、ゴムのような柔らかいモノの形を扱います。絵を考察しますが、絵自身を考えるのではなく、絵を数学の言葉に置き換えて研究するのがトポロジーです

■紐(ひも)の形を数式に

 私はトポロジーの中でも、特に紐の形や絡み方について、約10年前から研究を続けています。例えば、運動靴の靴紐が、一見違う結び目の形をしていても、同じ絡み方なのではないか、ということについて、紐の形そのものを見るのではなく、紐の形を数式に対応させ、数式を使って調べます。一見数学的に曖昧そうな概念にきちんと定義を与え、数学の言葉に置き換えるところがトポロジーの面白さの一つだと思っています。
 数式に変えることで、これまで、さまざまな研究者が作り上げてきた数式に関する性質を使うことができます。その性質をうまく活用しながら、紐の形に対応する数式を作り出す方法を考えています。

小鳥居さん3
3Dプリンターで作ったいくつかの結び目の模型

■アウトリーチ活動

 研究の内容を外に向けて伝えるアウトリーチ活動に積極的に取り組んでいます。アウトリーチは、研究を高校生や一般市民らに知ってもらいたい、という目的がありますが、人に伝える技術が身に付けられるので、自分自身の成長にもつながると思っています。少しでも興味を持ってもらうため、VRを使い、より視覚的にアウトリーチをすることもあります。

小鳥居さん2
WPIサイエンスシンポジウムでのアウトリーチ活動

■だいご味と難しさ

 トポロジーは、絵を見ますから、イメージをしやすいのですが、数式に落とし込むと、絵は出てきません。数式の背景に絵があることを考え、数式と絵の間を行き来しながら考察していくことが、研究の面白さであり難しさでもあります。
 数学者にはコンピューターを使って解析する人もいますが、私は紙とペンで研究をしています。そのため、どんな場所でも手軽に仕事ができるのも研究のだいご味です。

■これから

 もっと、いろいろな数学の勉強をしていきたいです。多様な数学の知識がなくても研究はできますが、たくさんの引き出しを持っていた方が良い研究ができるからです。一方で、異なる分野の研究者と協力し、新しい研究を切り開く融合研究にも取り組みたいと思っています。幸い多様な分野で活躍する世界の研究者が広島大に集結し、共同研究を行うプログラムメンバーの一人にも選ばれました。新しいインスピレーションを得て自分の研究に役立てたいと願っています。

PROFILE
神奈川県の桐光学園中・高卒。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院理工学研究科博士課程修了。2014年~17年、東京大学大学院数理科学研究科特任研究員。理化学研究所革新知能総合センター特別研究員などを経て、20年10月から現職。理化学研究所数理創造プログラム(iTHEMS)客員研究員。WPI「持続可能性に寄与するキラルノット超物質拠点(SKCM2)」副拠点長(アウトリーチ・広報担当)兼PI。

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2022年12月19日

【広島大学の若手研究者】ゲノム編集技術の開発

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院統合生命科学研究科 数理生命科学プログラム 准教授
佐久間 哲史さん

佐久間 哲史さん

ゲノム編集技術の開発

科学的なプロセスを理解し、全方向から攻める
使いやすい技術を届け、社会に還元していく

■研究のきっかけ

 もともと人の役に立つ研究がしたくて大阪大学歯学部に進みましたが、基礎研究をしたい気持ちが強まり、広島大学理学部生物科学科に編入しました。ゲノム編集技術の研究を始めたのは2010年、博士課程後期です。以来、山本卓教授のもとで研究を続けています。

■研究内容

 ゲノム編集技術は、2020年にノーベル化学賞を受賞するなど、近年、世界で注目されている分野です。ゲノム編集とは、生命の設計図といわれるゲノムの情報を、DNAを酵素で切断することで書き換える技術です。

 細胞の中には核があり、その中にDNAがあります。ヒトでいうと、DNAには30億もの情報が含まれ、その30億のうちの特定の遺伝子だけを書き換えます。細胞は切断されたDNAを修復しようとし、その働きを利用して目的通りに改変させていきます。この「目的通り」を実現するためにさまざまなアプローチがあります。DNAを切断するはさみの切れ味や場所を認識する精度を上げるなど、科学的なプロセスを理解しあらゆる方向から攻めていきます。

国際学会(FASEB conference)でのポスター発表
国際学会(FASEB conference)でのポスター発表

■研究の醍醐味(だいごみ)

 ゲノム編集技術は、動物、植物、微生物などあらゆる生物、さらに産業、医療などにも応用できる裾野の広さがあります。例えば、卵のタンパク質のDNAを書き換えて卵アレルギーの方でも食べられる卵を作ったり、治療方法がなかった遺伝性の病気を治したり。また、有用な農作物を作ろうとするとき、何十年もかかる品種改良を数年で実現できるようになります。さまざまな異分野の研究者との共同研究を通して、開発した技術が社会に還元される様子が見えることもやりがいです。

広島大学からの受賞の数々
広島大学からの受賞の数々

■研究者として大切にすること

 オンリーワンの技術よりも、汎用(はんよう)的に使える技術の開発を目指しています。世界中の人が役立ててくれることが、技術の発展につながるからです。1988年にゲノム編集の概念の元が発見されて以来、ゲノム編集技術は生命科学の歴史上でも類を見ないスピードで進化しました。その背景には、研究者が開発した技術を独占せず、広く使えるようにしてきたという土壌があります。研究者人口も多く、毎日新しい論文が出るほど活発に研究がおこなわれています。

■研究で実現したいこと

 「より正確に、より効率よく、より安全に」を追求し、より産業に使いやすい技術を社会に届けていくことが目標です。その先に、アレルゲンを抑えた卵が食卓に上る、バイオ燃料をガソリンスタンドで注げるなど、ゲノム編集技術を生活の中で目にする未来をイメージしています。2019年に設立された大学発ベンチャーのプラチナバイオ㈱を通じて、研究成果の産業実装にも携わっています。

 ゲノム編集技術の可能性は無限大。開発に終わりはありません。

PROFILE
1984年、広島県生まれ。2008年広島大学理学部生物科学科卒、2012年同大学大学院理学研究科で博士号を取得。日本学術振興会特別研究員、広島大学特任助教、特任講師、講師を経て現職。主な受賞歴として、2015年広島大学学長表彰、広島大学Phoenix Outstanding Researcher Award(2016年・2017年)、広島大学Distinguished Researcher(2018-2020年、2021年-現在)など

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2022年11月21日

【広島大学の若手研究者】研究テーマは声楽・音楽教育学

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

人間社会科学研究科 准教授
大野内 愛さん

広島大学の若手研究者に聞く

研究テーマは声楽・音楽教育学

音楽を実技と理論の両面から研究
オペラ歌手として公演、表現方法考察

■二足のわらじを履く

 音楽を、声楽の演奏を通した実技面と、音楽教育学という理論の両面から研究しています。演奏では、広島のオペラ歌手として公演などに参加しながら、発声法や演奏表現の方法について研究しています。音楽教育学では、音楽において重要な国とされるイタリアで、インクルーシブな音楽教育をテーマに研究をしています。

 中学校のとき、合唱部に入ったことが、音楽の世界に導かれるきっかけになりました。

■演奏活動が研究

 演奏の表現方法については、歌詞の内容や感情を、どんな音色で、どんな周波数で、どんな速度で歌えば聴いている人に伝わるのか―といったことを、舞台に立ちながら研究しています。日本のトップレベルの人たちと共演することも多く、さまざまなことを学んでいます。また、発声法の研究は、人それぞれで楽器(体)が違いますから、骨格など体の構造を勉強しながら、どのような体の使い方をしたときに良い声が出るのかを考察しています。

 実技は、私自身が演奏することが研究になります。音楽を通して分かったこと、そして音楽家としての精神を、声楽を学ぶ学生に還元できるようにしています。

2022年広島大学ホームカミングデーにて大学歌独唱
2022年広島大学ホームカミングデーにて大学歌独唱

■インクルーシブな音楽教育考察

 イタリアは、障がいのある子どもたちが通常の学級に入って学ぶ「インクルーシブ教育」を実現させている国です。イタリアでは、音楽で人を育てていこうとする「音楽コース」が1999年に中学校に新設され、現在ではイタリア全中学校の25%に設置されています。音楽コースでもインクルーシブな音楽教育に取り組んでおり、興味を持ちました。

 音楽コースでは、障がい児と健常児が一緒にアンサンブルを楽しんでいます。アンサンブルは、一人が欠けると成立しません。私が研究対象で訪れた学校では、多くの障がい児が通っており、「できなければ助ければいい。助ければ一緒にできるじゃないか」という取り組みが浸透していました。障がい児も健常児もできないことはあります。障がい児はできることとできないことのデコボコが健常児よりも大きいのかもしれません。少しのサポートで、ともに演奏できる可能性があることに気付きました。

 多様な仲間たちとの演奏による共感は音楽のもつ素晴らしさと言えます。研究をする中で、インクルーシブ教育を実現するにあたり、音楽のもつ大きな可能性を感じています。

2021年東広島芸術文化ホールくららのサロンホールにてR. シューマン作曲「女の愛と生涯」を演奏
2021年東広島芸術文化ホールくららのサロンホールにてR. シューマン作曲「女の愛と生涯」を演奏

■これから

 日本でインクルーシブ教育を実現するためには、学力の保障が課題になります。今後私は、障がいのある子どもたちと一緒に学ぶことで、健常児の音楽の学力が向上する可能性を考察していくつもりです。

■座右の銘

 「目の前のことに誠実に!」。今、目の前にあることに誠実に、一生懸命に取り組んでいくことが、結果的に将来の夢や自分の望む未来になる、と思っています。

PROFILE
1984年生まれ。愛媛県宇和島市出身。2003年広島大学教育学部入学。20年に同大学院教育学研究科にて博士(教育学)取得。令和2年度広島文化新人賞受賞。広島県内を中心にオペラ歌手として演奏活動をしている。20年から現職。

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2022年10月25日

【広島大学 輝く学生にズームイン】広島大学校友会

11月5日にホームカミングデー

広島大の魅力発信。市民との交流促進
校友会学生チームら企画

 広島大の卒業生や在学生、東広島市民たちが交流を深める「広島大学ホームカミングデー」が11月5日、東広島市鏡山の広島大学東広島キャンパスで開かれる。主催者の一員として準備を進めている広島大学校友会の学生チームのメンバーは「多くの人に来ていただき、広島大の魅力に触れて」と話している。

 ホームカミングデーは、今年が16回目で、ホームカミングは英語で帰宅や帰郷を意味する言葉だ。2007年に広島大学校友会を設立し、「大学が卒業生や旧教職員にホームカミングを案内し、卒業生の交流を促進したい」と始まった。09年の3回目からは、「多くの人に広島大を知ってもらいたい」と市民にも大学を開放し、市民参加型のイベントとして定着、大学と校友会が共催して続けている。

特産品やグルメのブースが並ぶホームカミング広場1
特産品やグルメのブースが並ぶホームカミング広場2
特産品やグルメのブースが並ぶホームカミング広場

 今年は9時30分から17時まで、サタケメモリアルホール周辺のホームカミング広場を中心に、東広島キャンパス一帯で開かれる。サタケメモリアルホールでは、オープニングセレモニーに続いて、俳人・エッセイストで知られる夏井いつきさんが講演を行う。俳句やことばが持つ力について、分かりやすく伝える。

 各学部・研究科は、研究内容を市民や卒業生に紹介。市民参加型の企画を用意している研究室もある。理学部では、「現代科学をあなたの目で」と銘打って、市民が持ち寄った岩石を鑑定したり、海の珍しい動物を公開したりする。自然科学研究支援開発センターでは、極低温の不思議な世界を見ることができる。

パフォーマンスを披露する学生サークルのメンバー
パフォーマンスを披露する学生サークルのメンバー

 ホームカミング広場では校友会の学生チームが主体となった企画が並ぶ。「先輩見つけ隊」と銘打ったブースでは、卒業生や在学生たちの両手を開いた写真を撮影。A3サイズにラミネート加工を施し、写真をつなぎ合わせていく。今後、数年をかけて写真を撮り、最終的には、つなぎ合わせた写真で東広島キャンパスを周回できるようにする。

 広島大と連携協定を結ぶ県内外の市町からも特産品や人気グルメが揃う。学生チームは「卒業生に東広島や広島を思い出してもらおう」と自らお好み焼きや美酒鍋のブースを出店する計画だ。

卒業生に「広島を思い出して」とお好み焼きを焼く校友会の学生
卒業生に「広島を思い出して」とお好み焼きを焼く校友会の学生

 特設ステージでは、さまざまな学生サークルが日頃の成果やパフォーマンスを披露。市民が一緒に楽しめるイベントも用意している。

 学生チームの片山開貴さん(法学部3年)は「僕たち学生が市民の方々と触れ合う機会はほとんどない。市民の方々には、気軽に足を運んでもらい、素の広島大や学生を知ってもらうきっかけにしてもらえれば」、山中千紘さん(経済学部2年)は「五感で楽しめるのがホームカミングデー。ブラッと、遊び感覚できてください」と話している。雨天決行。

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2022年10月11日

【東広島の企業紹介】「ミツトヨ志和工場」

東広島で就職ってどこですればいいの?そもそも東広島に就職できるところってあるの?
そんな学生の皆さんへ東広島の企業を紹介!

今回紹介する東広島の企業は
「ミツトヨ志和工場」

モノづくり支えるマイクロメータ一貫生産

 1934年の創業以来、世界に市場を広げ、精密測定機器の総合メーカーとしての地歩を固めてきたミツトヨ(本社・川崎市)。志和工場(東広島市志和町志和東)は、創業期からミツトヨを支えてきた製品で、あらゆる部品の長さを測定できる「マイクロメータ」を製造する専門工場だ。(日川剛伸)

ミツトヨ志和工場
志和町志和東の志和工場。昨年工場を増設した

技術にこだわり1350品目手掛ける

 1947年、マイクロメータの製造技術温存のため、志和工場の前身となる広島研究所を開設。その後、1987年にマイクロメータの一貫生産工場を建設・操業開始した。

 志和町は創業者の沼田恵範氏(故人)の生誕の地。志和工場に隣接する浄蓮寺の三男として生まれ、「よし、いつか必ず自分がこの村に工場をもってこよう」と志を抱き34年に会社を興した後、半世紀越しでその思いを成し遂げ、創業者の志が刻まれているのが志和工場だ。

 志和工場が扱うマイクロメータは、創業時のミツトヨが、国産化に成功した、会社の原点ともいうべき商品だ。現在、志和工場では、1350品目のマイクロメータを切削・研削加工から、組立まで一貫して生産。100分の1ミリ(10マイクロメートル)単位で主に読み取れる機械式のマイクロメータから、1000分の1ミリ(1マイクロメートル)単位で読み取れるデジタル式のマイクロメータまで手掛ける。

 創業者の技術へのこだわりは、70年代後半には、いち早くデジタル化の実現となって実を結び、以後、デジタル化で業界をリードしてきた。2011年には、世界初となる1万分の1ミリまで測定できるマイクロメータの生産を開始した。

ミツトヨ志和工場内
1350品目のマイクロメーターを手掛ける

 昨年は、好調な受注増を背景に、工場棟と事務棟5棟のうち2棟を増床した。建物の延べ床面積は約1万1600平方mとなり、改修前と比べて1・4倍になった。工作機械などの設備を導入し、来年までに生産能力を1・26倍に、29年までに2倍に引き上げる計画だ。藤川勇二工場長は「精密測定機器はものづくりの生命線。(増床で)電気自動車や通信機器などの分野を中心に、ますます高度化・精密化する市場への対応に備えたい」と力を込める。

 社是は「良い環境」「良い人間」「良い技術」。志和工場では、良い技術は、良い人間によって生まれ、良い人間は良い環境によって育てられる―と解釈する。藤川工場長の話によると、自然環境に恵まれ、交通の利便性の良い東広島市は、ミツトヨの社是を実現できる絶好の土地柄だと、いう。

 志和工場は今年で操業35年目。国内はもちろん、世界60カ国に販売拠点を持ち、そこから世界中に販売代理店のネットワークを展開する。ミツトヨが、マイクロメータを生産しているのは志和工場だけで、志和で作られた商品は、世界中のものづくりの現場で利用されている。

 藤川工場長は「世界の需要を見極めながら、これからも東広島で、創業者の志を引き継ぎ、マイクロメータを作り続けていきたい。工場を未来の世代につなげていくことが、地域の雇用を守ることにもなる」と目を輝かせる。

ミツトヨのマイクロメータの歴史と製品

【1μm(マイクロメートル)の厚さはどのくらい?】

 1μm(マイクロメートル)は1000分の1ミリ。ただ、1000分の1ミリと聞いてもピンとくる読者はいないだろう。ちなみに1万円札の厚みは10分の1ミリだから、1万円札の100分の1ミリが1μmになる。

ミツトヨのマイクロメータ第1号
ミツトヨのマイクロメータ第1号
高精度デジマチックマイクロメータ(MDH-25MB)
高精度デジマチックマイクロメータ(MDH-25MB)。高精度測定のニーズに応え0.1μm測定を可能にしたマイクロメータ
クーラントプルーフマイクロメータ(MDC-25MX)
クーラントプルーフマイクロメータ(MDC-25MX)。ミツトヨの原点を継承する1μm読みのマイクロメータ

1936年 第1号マイクロメータを製作
1947年 戦後、中断していたマイクロメータの生産を開始
1969年 3点式内側マイクロメータの生産を開始
1979年 国産第1号のデジタルマイクロメータを製作
2003年 クーラントプルーフマイクロメータを開発
2011年 高精度デジマチックマイクロメータを開発

藤川勇二工場長に聞く

何でも言い合える環境
即戦力求め中途採用も積極的

藤川工場長
藤川工場長


 志和工場には、派遣社員を含め、現在、約330人が働いています。男女比は半々で、東広島市在住の社員は7割を占めています。

 県内の学卒者は本社一括採用で、高卒者は広島地区(志和工場、呉工場、郷原工場)での一括採用となります。新卒者の採用は、毎年若干名のため、生産の拡大などで人員が必要になった際には、中途採用で対応しています。

 新卒者には、会社と一緒に成長できるピュアな心を持っているかどうかを、採用の判断基準にしますが、中途者にはスキルや経験を求めます。年齢は問いません。ものづくりの工場として、設計から開発、管理、製造、総務と各職務に合っている人材をピンポイントで採用しています。

 志和工場は各部署の垣根を取り払い、社員同士が、上司と部下が、何でも言い合える環境づくりに取り組んでいます。その一つが3年前から始めた「ワイガヤ活動」。部署が違う、同じ階級クラスの社員が集まり、工場のためになるのだったら何でもいいので、好きなことにチャレンジしてもらっています。壁を取り除くことで、思いもよらないアイデアが出て、会社(工場)の発展につながることを期待しています。

3年前から取り組む「ワイガヤ活動」
3年前から取り組む「ワイガヤ活動」

―ミツトヨ 会社概要―

 1934年、東京都で創業。1987年、三豊製作所からミツトヨに社名変更。精密測定機器の総合メーカーとして、マイクロメータ、ダイヤルゲージ、光学機器、画像測定機など、5500種類の商品を手がけ、世界各国に販売ネットワークを持つ。本社は川崎市。国内の研究開発・生産拠点としては、広島地区の志和工場、呉工場、郷原工場の他に、川崎工場、測器工場、MC工場、清原工場、中津川工場、宮崎工場、高知工場がある。
2021年末現在の従業員数は5270人。海外の法人を含めた連結売上高は1170億2900万円。

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2022年9月27日

【広島大学の若手研究者】研究領域はスポーツ科学

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院人間社会科学研究科 助教
尾崎 雄祐さん

尾崎さん

研究領域はスポーツ科学

陸上の競技力向上に着目し研究
指導者や選手の指南になる研究を

■研究のきっかけ

 小学生のときから、ハードル走に取り組み、今も現役選手として競技を続けています。選手として、どのような練習に取り組んだら競技力が高められるだろうか、と思っていたことが、大学時代の卒論のテーマになり、研究の原点になりました。

■400㍍ハードル走でパフォーマンスを高めるために

 最初の大きな研究テーマです。高校生を対象に、10台あるハードルを、それぞれ踏み切った後の、着地時のタイムを計測しました。ハードル間のタイムを測ることで、その選手が、どのようなレースパターンで走っているのかを分析。記録が伸びたときには、レースパターンにどういう推移をたどってきたのかを考察してきました。

 記録が伸びた選手を分析してみると、後半のタイムが劣っていた選手は、後半のタイムを改善し、前半のタイムが劣っていた選手は、前半のタイムを改善していました。長所を伸ばすよりも、短所を克服するトレーニングに取り組んだほうが、記録の向上につながっていくことが明らかになりました。

トップアスリートのコーチング現場と、フィードバック例
トップアスリートのコーチング現場と、フィードバック例

■スタティックス(静的)ストレッチング(以下SS)と運動能力

 近年の研究テーマです。SSは傷害予防の一方で、運動能力を落とすことが指摘されていることに着目。短距離選手や球技選手を対象に、肉離れが生じやすいハムストリングスのSSを行った直後に、全力疾走してもらい、ハムストリングが強く関わる、膝を曲げる機能の変化を考察しました。

 その結果、走力に影響を与える膝を曲げる力発揮のタイミングが遅れることが分かってきました。タイミングが遅れると、より膝が伸びたときに大きな力を発揮することになり、肉離れをしにくい脚の使い方に近づく可能性があります。一方で、走力は落ちることが分かりました。

 SSは、記録を出したい試合では、リスクを伴いますが、普段のトレーニングでは故障予防につながり得ます。選手個々でSSの取り組み方を
示唆できる研究になったかなと思っています。

 今後は、日常的に行うSSが、運動を行う直前のSSと比べて、アスリートにどんな影響をもたらすのか、研究したいと思っています。

レース、ハードルクリアランスデータ収集風景とレースパターン情報
レース、ハードルクリアランスデータ収集風景とレースパターン情報

■夢

 大好きな陸上競技に、選手として、指導者として、研究者としてかかわることができ、夢はかなっています(笑)。研究者としては、私の論文が指導者や選手の大きな成果となって表れることを願っています。選手、指導者としては、ひのき舞台で入賞したり、入賞できる選手を育成したりすることが目標です。

■陸上競技とは

 取り組んできたことが数字になって表れることです。数字はウソをつきませんから、モチベーションにもつながっています。選手・指導者としてはもちろん、研究にも通じています。これからも揺るぎない信念を持って陸上にたずさわりたいと思っています。

PROFILE
1994年、長崎県出身。2021年、広島大学教育学研究科博士課程修了。22年4月から現職。広島大学陸上競技部コーチ。日本建設工業アスレティッククラブコーチ。選手としては日本選手権に2回出場。

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2022年8月22日

【広島大学の若手研究者】GISで可視化、災害など考察

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは
大学院先進理工系科学研究科助教
田村 将太さん

大学院先進理工系科学研究科助教

専門は都市計画

GISで可視化、災害など考察
都市計画家兼ねた研究者に

■研究者を志した動機

 大学では建築を学んでいましたが、建物を建てる際には周辺環境にも配慮が必要です。そうすると、都市全体で建物を考える必要があり、都市計画分野に関心が移っていきました。
 研究者を志したのは、アメリカ・メリーランド大学への留学がきっかけです。研究者として理論研究を進めながら、現実の都市計画に携わる方々との協同研究の機会に恵まれ、研究者かつアーバンプランナー(都市計画家)になることが、自分の進むべき道と思うようになりました。

■これまでの研究内容

 地理情報システム(GIS)を使い、さまざまな研究に取り組んできましたが、ここでは二つの研究を紹介したいと思います。一つ目は、コンパクトシティに関する研究です。日本の多くの都市では、人口減少により都市施設維持コスト(道路や上下水道等)や環境負荷増大等の問題が生じており、これらの解決に向けてコンパクトなまちづくりが求められています。

 二つ目は「平成30年7月豪雨」の被害分析です。私自身、災害直後からボランティアセンターでGISを用いた情報支援活動を行う中で、河川氾濫等による甚大な被害を目の当たりにし、災害に強いまちづくりの必要性を強く感じました。そこで本研究では、三原市沼田川流域を対象に、浸水被害の特性について分析しました。

研究室学生へのGIS講習の様子
研究室学生へのGIS講習の様子

■主な研究成果

 広島市を対象としたコンパクトシティに関する研究では、都心部から離れたエリアや市街地縁辺部で、1人あたりの自動車の二酸化炭素排出量や都市施設維持コストが大きくなることが分かりました。またこの結果をもとに、市街地中心部に集約した都市をGIS上で評価した結果、二酸化炭素排出量と施設コストが削減されることが明らかとなりました。

 豪雨災害に関する研究では、沼田川流域の被害を分析した結果、比較的古い建物の被害が少なく、新しい建物の被害が多いことが分かりました。これは、この地域が以前より水害常襲地域であるため、浸水リスクの低いエリアから優先的に開発されてきたものの、戦後の人口増加に伴い、浸水リスクの高いエリアまで開発が進んだことが要因と考えられます。

 今後はこれら二つの研究の視点から、災害軽減を考慮したコンパクトなまちづくりが重要になると考えています。

■研究のだいご味と難しさ

 だいご味は、知的好奇心を刺激してくれることです。特にデータを地図化、可視化して初めて分かることに出会えた時に研究の面白さを感じます。知りたいと思うことが、私の研究の原動力となっています。難しい点は、研究成果をいかに都市計画まで落とし込むかということ。現実は理論だけでなく、地域の実情や住民の思い等も考慮し、地域に合わせた将来像を描く必要があるためです。

国際学会(オンライン)での発表の様子
国際学会(オンライン)での発表の様子

■これから力をいれたいこと

 豪雨災害は常習化しており、災害に強いまちづくりのための施策が行政に提言できるよう、土砂災害から内水氾濫まで、災害に関する研究に力を入れたいと思っています。

PROFILE
1992年、東広島市生まれ。2015年、広島大工学部卒。18年、広島大大学院博士課程前期修了。米メリーランド大学留学を経て、21年広島大大学院博士課程後期修了。日本学術振興会特別研究員DC1。21年から現職

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