2019年10月24日
【広島大学の若手研究者】ニワトリの遺伝資源保存法を確立
広島大学の若手研究者に着目し、その研究内容についてインタビューしました!🎤
今回お話を聞いたのは
大学院生物圏科学研究科助教
中村隼明(なかむら よしあき)さんです!
始原生殖細胞に着目
ニワトリの遺伝資源保存法を確立🐓
研究テーマを一言で言えば「動物を細胞レベルで保存する研究」です。もっとかみ砕いて表現すると「現代版のノアの箱舟計画」といったところでしょうか。
ギリシャ神話の「ノアの箱舟計画」では、箱舟の中でさまざまな動物種の雄と雌のペアを冬眠させます。大洪水の後、眠りから覚めた動物は、交配して子孫を増やします。
僕の目指す「箱舟計画」では、液体窒素タンクの中で、次世代に遺伝情報を伝達することができる唯一の細胞である生殖細胞を冬眠させます。
ただ、生きた動物がいないので、交配によって子孫を増やすことができません。このため、凍結した生殖細胞を溶かして、その細胞から個体を復元する必要があります。
僕の研究は生殖細胞から、次世代の個体を復元する技術を開発し効率化することです。
小学生のとき、大干ばつの影響で、僕の住んでいた地域からベッコウトンボが姿を消しました。そういう生き物を、人間の手を介して保護していきたい、と思ったのが、動物の種の保存に興味を抱くきっかけになりました。
哺乳類の発生工学分野では、18世紀に人為的に精液を生殖器に注入する人工授精の技術が生み出され、戦後は精液の凍結保存技術が実現しました。
このことが、家畜生産の現場に人工授精の普及をもたらし、今では乳牛の99%、肉牛の95%が人工授精によって生産されています。
しかし、鳥類は哺乳類ほど種を保存する技術が十分ではありません。鳥類の卵は大き過ぎて、凍結することができないことがネックになっているからです。
研究で着目したのは、ニワトリとウズラをモデルにした始原生殖細胞です。
始原生殖細胞とは、胚(鳥類では卵の中の時期)が発生する過程で出現する精子や卵の起源細胞のことです。
その始原生殖細胞は、将来の生殖層(オスであれば精巣、メスであれば卵巣)に移動する過程で、一過的に血液中を循環することが知られていました。
この性質を利用して、血液中や生殖巣から取り出した始原生殖細胞(ドナー)を、他のニワトリの胚(宿主)の血液中に移植する技術が開発されました。
ドナー始原生殖細胞は、宿主胚が持つ能力によって、生殖巣へ移動して生着し、機能的な精子や卵になります。ただ、これまでの技術の限界として、始原生殖細胞の操作の根幹となる採取や凍結、移植の効率が極めて低いことが課題でした。
そこで、これらの課題を一つずつ解決することで、始原生殖細胞を凍結して、ニワトリやウズラを半永久的に保存する技術を確立しました。
特に、宿主胚自身が持つ始原生殖細胞を除去して、ドナー始原生殖細胞由来の精子や卵だけを作らせる技術は、凍結した始原生殖細胞からニワトリを効率的に復元することができるため、世界から注目されています。
遺伝資源は、一度損失した場合、再び取り戻すことができません。このため、現存する動物から積極的に遺伝資源を収集・凍結保存することは急務です。
日本鶏などの希少な品種は、年間産卵数が少ないため、得られる受精卵の数が制限されますから、まさに保存は必須です。
家畜化された鳥の遺伝資源の保存は、鳥インフルエンザの脅威に対抗するためにも、大切な意味合いを持ちます。
将来的には、繁殖能力の高いニワトリに、絶滅危惧種のライチョウを生ませてみたい、と思っています。どちらもキジの仲間。できないことはないと思っています。
※プレスネット2018年4月5日号より掲載
今までの若手研究者はコチラ
2019年10月24日
【広島大学の若手研究者】半導体の新材料を探索
広島大学の若手研究者に着目し、その研究内容についてインタビューしました!🎤
今回お話を聞いたのは
先端物質科学研究科助教
富永依里子さん(とみなが よりこ)さんです!
研究の最終目的を常に見据えて半導体の新材料を探索❄
半導体は、現代の私たちの生活を支える重要な電子部品のほぼ全てに使われていると言っても過言ではありません。
その半導体には、高品質の素材が求められるため、さまざまな種類の半導体結晶を作製し、その可能性について研究を重ねています。
特に半導体に広く使われている「ガリウムヒ素」系の化合物について、学部生のときから取り組んできました。
追究してきたのは、光通信用の新しい半導体レーザ用材料・ガリウムヒ素ビスマスです。ビスマスは、原子半径が大きく、結晶にひずみを来すことから、多くの研究者はこの材料を敬遠してきました。
半導体の分野では、半導体基板を素地にして半導体結晶を作っていきます。
結晶を作る際には、半導体基板と、作りたい半導体の格子定数(原子が作る結晶構造の辺の長さ)がそろっているほど、高品質な結晶が作製できます。格子定数がそろっていないと、ひずみができて品質の悪い結晶になります。
このため、学生時代の所属研究室では、格子定数に原子半径の小さい窒素を加えることで、半導体基板と格子定数をそろえていました。しかし、窒素を結晶に加えると、結晶の発光強度が下がり、レーザ動作ができない欠点がありました。
私は発光に焦点を絞り、結晶にひずみが生じてもいいので、窒素を入れずに、ガリウムヒ素基板上に、ガリウムヒ素ビスマスの結晶を作製、レーザ動作させる実験を繰り返してきました。
ガリウムヒ素ビスマスの結晶品質が、他の半導体結晶と比較しても劣っておらず、工夫をすれば絶対にレーザ動作できると信じていたからです。実験を通して、レーザ動作が確認できたときの感動は忘れられません。
レーザ用新材料としての可能性が認められ、何よりうれしかったのは、国内外の先生方から学会で「面白い研究だ」と声を掛けていただいたことです。
当時は26歳。若かったことで、窒素を加えるものという固定観念にとらわれなかったことが功を奏したのだと思っています。
10歳のとき、「地球が1cm太陽に近くても遠くても、私たちは誕生していない」と書かれた本を読み、漠然と地球を守る仕事に就きたい、と思いました。
高校の物理の授業で、半導体や室温超伝導材料のことを知り、電子材料分野の研究者になれば、地球温暖化を防止する太陽光発電システムを作ることができるのだな、と思うようになりました☀
10歳のころに描いた夢がつながり、電気電子系の大学学部に進学、現在に至っています。
今の立ち位置は、研究を通して、学生に教育することも大切な仕事です。
研究者を目指す学生には、常にゴールを見据えて実験に邁進することを伝えたいですね。
研究には「生みの苦しみ」が伴います。明確なモチベーションとビジョンを持っていれば、「つらいな」という思いも乗り越えることができるからです。
広島大学に赴任して7年目を迎えます。これまでは、きれいな結晶を作ることに主眼を置いてきましたが、 現在は意図的に原子配列を乱すことに力点を置いて研究 に取り組んでいます。
テラヘルツ波という電磁波を発生させたり、検出したりするための素子用の半導体を結晶特性の観点から見た研究を行っています。テラヘルツ波は新しいセンシング技術などさまざまな分野への応用が期待されています。
究極の夢は、トランジスタやレーザ、結晶成長など半導体分野の世界的な研究者が集い、新しいものを生み出す世界規模の拠点を作ることです。
そのメッカが広島大学にできたら最高ですね✨
※プレスネット2018年5月31日号より掲載
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2019年9月26日
【広島大学の若手研究者】情報の利用しやすさを切り口に研究
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大アクセシビリティセンター 助教
坂本 晶子 さん
情報の利用しやすさを切り口に研究
学生時代や産業技術総合研究所の研究員時代は、液体など規則的に並んでいない不規則系の分子の性質を、計算機を使用する大規模シミュレーションで調べる研究を行っていました。
研究員時代は水素をエネルギーとして活用する場合に、どこに貯蔵すれば、水素をうまくエネルギーとして引き出せるかを、計算機を使って可視化しながら研究をしてきました。
計算で得られたデータの可視化プログラムを作成し、可視化を行う様子
2011年から現在の職場であるアクセシビリティセンターに所属しています。アクセシビリティとはアクセスしやすさ、利用しやすさ、分かりやすさなどといった意味がります。
これまでの物理とは異なる分野の研究を行うきっかけになったのは、アクセシビリティという切り口を、科学として研究することが新鮮で興味を覚えたからです。
シミュレーションという、計算機を使用する研究をしていたことや、学生時代に情報セキュリティーに関わりを持ったこともあり、「情報」に関するアクセシビリティに興味を持ち研究を始めました。
インターネットの普及で、情報量が増加する中で自分が求める情報にアクセスしやすくするにはどうすればいいのか。インターネットはサーバー上でつながる巨大なネットワークですが、その情報がどのように移動し、どのようにつながっているのか。この2点に絞って研究を続けてきました。
まだまだです。たくさんの情報から選んでいるつもりでも、一つのテーマをひたすらたどっていくと偏った情報にいきつくこともあります。
言い換えればたくさんの情報を見ているようで、実はフラットではない細い情報にたどりつきます。
一方で、たどるよりも、感覚的に検索して情報を探すことも手法としてはありです。正確な情報を得るためのポイントはあるはずなので、そこを模索しています。
広島大学には、全学生に質の高い同一の教育を保障するという理念があります。障害などで不自由さのある学生に分かりやすく、実務的な情報を提供するためにはどうすればいいのか。システム開発など業務に関連した研究も増えそうです。
さまざまな角度から見ることで、それまでとは異なる見方ができることが興味深いですね。一方で、予測がつかないことが研究の難しさです。
これまで立てていた予測や考え方を、アクセシビリティという切り口で見たとき、違うものが見えてくることがある一方で、分からないことも出てきて、面白くもあり難しくもあります。
インターネット上のアクセシビリティからの科学とは何か。そのことを突き詰めていくのがこれからの夢です。
※プレスネット2019年9月26日号より掲載
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2019年7月25日
【広島大学の若手研究者】現象をつぶさに観察、結論はシンプルに
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
大学院工学研究科 助教
橋本 涼太 さん
専門は地盤工学。貢献できる領域を広げたい
カンボジアにある世界遺産のアンコール遺跡群は、複雑な構造物の石積み遺跡ですが、それを支える地盤が変形し、倒壊の危険にさらされています。
地盤工学の面から、倒壊を防ぐには、どう対処すればいいのか。8年前から研究を続けています。毎年1回は必ず現地を訪れるようにしています。
研究調査対象のアンコール遺跡(パイヨン寺院)
研究当初は、石積み遺跡を守るには、高度な力学理論に基づいたシミュレーション手法を開発し、劣化予測から適切な修復方法の提案まで全て賄えるようにすることが重要だと考えていました。
しかし、その手法を用いて分析していると、破壊メカニズムは手計算でも評価可能なシンプルな理論で説明できることが明らかになりました。
その方が建築史や考古学など遺跡修復に携わる他分野の研究者にも理解されやすく、修復に向けた具体的な議論につながりやすいことが分かってきました。
精緻な手法に基づきながらも現象をつぶさに観察し、結論はシンプルに導く。このアプローチは実学である工学の研究者として重要な視点であると位置づけています。
センターは昨年の西日本豪雨を受け、相乗型豪雨災害に全学を挙げて研究する拠点として設立されました。地盤工学の面から考察すると、それぞれの山で水の染み込み方や地盤の強度は異なります。
ただ、気象庁の雨量情報には、個別の山ごとの情報は盛り込まれていません。当然、住民にしてみれば、自分の裏の山の情報までは分からないのが実情です。個別の情報をいかに発信できるか。具体策を提言できるよう、検討しています。
土木における地盤工学の役割は、土の力学的現象を室内の実験で理解し、実際の構造物の設計に役立てていくこと。そのことはまさに研究の醍醐味です。難しさは自然の材料が研究対象であること。
遺跡での測量の様子
土の性質は場所ごとで違うし、同じ場所の土であってもばらつきがあります。そうした条件下で土の本質的な性質を見出すのが難しさであり、面白さでもあります。
残念に思うのは、地盤は構造物に比べると目立たないこと。研究は、地味ではあるけど国の社会基盤を支える重要な役割を担っていることをもっとアピールしていきたいと思っています。
地盤工学が貢献できる領域を広げていきたい、と思っています。地盤は、文字通り人間が利用するあらゆる空間の基礎をなしており、それを扱う地盤工学は他分野と協働する高いポテンシャルを有しています。海底から宇宙まで多方面にアンテナを張って飛び込んでいきたい、と思っています。
※プレスネット2019年7月325日号より掲載
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2019年3月28日
【広島大学の若手研究者】専門は古建築を中心とした文化財学
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学総合博物館学芸職員
佐藤 大規 さん
専門は古建築を中心とした文化財学
最初の研究テーマです。この城と出会ったことで今の自分があると思っています。
織田信長が築いた安土城は、5重6階地下1階の絢爛豪華な天主を備えていたとされています。
発掘調査や古文書・絵画資料などをもとに10年がかりで復元しました。
信長が創造した天守という建物は、豊臣秀吉が大坂城で受け継ぎ、その後広島城など全国に広まりました。
これまでの復元案は、安土城天主のみ天守の歴史から一線を画す形をしていましたが、資料を丁寧に読み解いた結果、形の上でもすべての天守の起源となることが確認できました。
当時の建築物は、平屋が普通。信長が築いた5重の高層建築には、周囲を屈服させるような権力の象徴の意味合いが込められていたと推察できます。
その後、豊臣秀吉が大坂城を築きますが、きちんと信長の意図をくみ取っています。
僕は安土城に続けて秀吉の大坂城の復元をしましたが、両城とも完璧な資料は残っていないので、10人の研究者がいれば10通りの復元案が出ます。
互いに議論を交わしながら歴史の謎をひもといていけるのが研究(文化財学)の魅力です。
キャンパス全体をミュージアムと位置付け本館をコア施設にしながら、各学部の研究内容を展示するサテライト館、学内の自然散策道(発見の小径)で構成しています。
広島大学総合博物館を訪れた小学生と恐竜と化石で盛り上がる佐藤さん
博物館をはじめキャンパス内は実物の宝庫です。実物に触れることで、新しい世界に関心を持つきっかけをつかんでもらえたら最高です。
2012年から、化石や地域の自然 に関する資料を展示している広島大総合博物館で働いています。
通算1年半、三原市教委に勤めた際、自分の研究成果を伝えることに楽しさを覚えたのがきっかけです。
今は年間に100回程度、来館者の方々に展示解説を行っています。
本宮八幡神社での現地説明会
聞いてくださる方が楽しい、もっと知りたいと思えるよう、自分も楽しむという感覚を持って解説・展示するよう努めています。
ずっとそんな学(楽)芸員でいたいです。
最近は東広島や鞆の浦・福山城などで、現存する建造物の調査研究を中心に行っていて、地域の文化財に光を当てていきたいと思っています。
例えば、1701年に建立された豊栄町の本宮八幡神社は、東広島の神社建築を考える上で重要で、地域を代表する建造物です。
建造物に限らず絵馬など幅広い分野で調査をして、価値ある文化財を次世代に一つでも多く残すことができれば幸せです。
※プレスネット2019年3月28日号より掲載
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2019年1月31日
【広島大学の若手研究者】大量のデータを基に英語学習者の傾向分析
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大外国語教育研究センター助教
高橋 有加 さん
関係詞に着目したコーパス分析による習熟度別特徴付けがテーマ
コーパスとは、実際に使用された大量の言語資料をコンピューター上にデータベース化したもの。そのコーパスを利用して、言語の傾向や仕組みなどを分析するのがコーパス言語学です。
コーパスには、さまざまな種類があり、私が今研究で使っているのは日本人英語学習者の書き言葉コーパスや話し言葉コーパスです。
近年、日本の英語教育に影響を与えている国際的な外国語習熟度の基準にヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)があります。CEFRには6つのレベルがあり、日本人に特化したコーパスを使い、それぞれの習熟度の学習者にどのような言語使用の特徴があるのか明らかにしたいと思っています。
コーパスの検索結果をパソコン画面で確認する高橋さん
そのレベル分けの際に有効な基準になると判断したのがwhichやthatなどの関係詞です。
説明を加えたり、限定したりする関係詞は、日本人が習得するのに時間がかかる文法項目の一つとされており、関係詞が英語力を見る目安になると考えました。
関係詞の使用頻度は、CEFRレベルが上がるにつれて多くなっていることが分かりました。また、関係詞の知識があっても間違いを恐れたり、使用が不必要であると判断したりした場合には使用されない関係詞が多くあることも分析できました。
エラーに着目すると、習熟度レベルが中級程度になるにつれて、関係詞のエラーの頻度も高くなることが分かりました。
ただ、エラーが多いことは関係詞を使っている証拠でもあり、ある程度のレベルに到達している目安として見なければならないことを示唆しています。
小学生のときに、「ハリー・ポッター」の映画を見て、登場人物の流ちょうな英語に感動。
「いつかあんな英語で世界中の人と自由に話してみたい」と思ったのが、英語を勉強するモチベーションになりました。私の経験だと、英語を使って何かを知りたい、という具体的なイメージをつくることが、英語が好きになる近道かもしれませんね。
関係詞以外の文法項目も分析してみたいと思っています。
学生に英語を教える高橋さん(英語の授業風景の一コマ
こうした研究を通じて分かったことを教材開発やシラバス(授業計画)の構築に役立てたり、具体的な学習到達目標のための目安として応用したりすることで、効率的な英語学習につながれば、と思っています。
※プレスネット2019年1月31日号より掲載
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2018年9月27日
【広島大学の若手研究者】時空間統計解析がテーマ
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大大学院教育学研究科・広島大情報科学部講師
山村 麻里子 さん
時空間統計解析がテーマ
データを分析することで、新しい事象を発見できることが醍醐味。
私は学生時代にソフトボールに打ち込んでいて、試合のたびにスコアブックを付けていました。
その数字の記録をさまざまな角度から分析すると面白いだろうなと。
ーもう1つは時間です。
時間は目に見えませんが、例えば身長や気温などはデータとして残すことで、時間ごとに変わっていく状況が分かります。
その時間の流れがもたらすものを、データの分析で見えたら、と思ったのが研究のきっかけです。
時間と空間の変化で、どういった違いが起こるかという、時空間統計解析に取り組んでおり,興味の対象となる項目が、調べられた場所や時間とともに記録されているデータを分析します。
具体的には、ノルウェー近郊の大西洋へ回遊するミン ククジラについて、生物学者と共同で、研究・調査を重ねています。
脂肪の厚さと緯度・経度、時間、および季節との関連を調べる分析から、さまざまなことが分りました。
それらの理由は生物学者が調べており、共同研究から見える成果に期待しています。
統計はブームですが、統計を支えている数学の理論をもっと勉強してほしい、と願っています。
最近は、データに分析が適しているかどうかを理論的に確かめないで、統計ソフトに頼ったまま結果を発表しているケースが目につきます。
統計解析に関する数式を学生と考える山村さん
数学の魅力は真か偽かの世界で、隙間が入る余地がないこと。学生には、その魅力をもっと知ってほしい、と思っています。
統計は数学の知識とパソコンによるデータ処理が欠かせません。
難しい数学の問題を何日も考え、データの分析のため、根気強くプログラミング言語を書きます。
数学もプログラミングも知りたいことにたどり着くまで、予備知識が必要で、それが幾重にも重なったとき、自分にできるのかと、難しいと感じます。
喜びは見えなかった事象が見えるようになること。データを取っただけでは単なる数字の羅列です。
そのデータを加工することで客観的に新しい事象を発見できることが醍醐味です。
広島大では今春、機械学習や統計を用いたデータの分析を学べる情報科学部を新設しました。
人工知能など、機械が人間と同等の能力を学習する裏では、統計学が大きく貢献しているからです。
教育の面では、統計を教えられる数学の先生を育成したいと思っています。
自分の研究は、分かりやすく、利用しやすい統計解析の研究を追究していくつもりです。
※プレスネット2018年9月27日号より掲載
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2018年7月26日
【広島大学の若手研究者】リュウキュウカジカガエルの幼生考察
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
両生類研究センター助教
井川 武 さん
研究テーマは進化生物学
リュウキュウカジカガエルの幼生考察
46度の温泉に生息 極限環境に適応分布拡大
研究対象にしているのは、日本の南西諸島に生息するリュウキュウカジカガエルです。
2013年、トカラ列島にある口之島の現地調査をした際に、リュウキュウカジカガエルの幼生(オタマジャクシ)が、これまで記録された中では最高温度となる46.1度の温泉で生息しているのを発見しました。
今は、ゲノム進化の観点から、このカエルの高温耐性の仕組みをつまびらかにするための研究を続けています。
小学生のときから、時代をさかのぼって考える歴史や科学全般が好きだったことで、進化の分野に興味を持つようになりました。研究の対象に両生類を選んだのは、広島大に両生類の研究施設があったからです。
研究の出発点は、地理的な観点から生物の進化を考える系統地理学です。
日本に生息する2系統の日本産ヒキガエル(二ホンヒキガエルとアズマヒキガエル)は、遺伝的には2系統に分かれています。
過去にそれらを分ける障壁があったと考えられ、DNA配列に基づいて推定した結果、約500万年前に日本列島が二つに分断された時期に2系統に進化したものと推察できました。
その後、南西諸島で絶滅危惧種に指定されている両生類の遺伝的多様性に関する研究に取り組みました。この研究では遺伝子解析に地形解析を組み合わせて、絶滅危惧種が島の中でも遺伝的に分化している仕組みを明らかにしました。
絶滅危惧種は様々な環境要因に依存していて、限られた場所でしか生息できません。生息地が連続していないと集団間の移動分散ができないために遺伝的分化が生じることが分かりました。
それとは対照的に台湾からトカラ列島まで広く分布しているリュウキュウカジカガエルには、多様な環境条件を克服する生理的な適応力が分布拡大の要因にあるのでは、との思いが膨らみ、リュウキュウカジカガエルの研究が始まりました。
口之島での現地調査
気温の高い亜熱帯でもオタマジャクシが生息する水温は高くても30度程度が限界です。
水温40度を超える口之島のセランマ温泉で、オタマジャクシがいることに気付いたときは驚きました。台湾の温泉でも生息が確認されていましたが、46.1度で生息しているオタマジャクシは、世界広しといえども口之島だけでしょう。
オタマジャクシを研究室に持ち帰り、人工的に温度を変えて調べると、40度までは、長時間生きられることが分かりました。
普通、生物には高温に対処するためのタンパク質がありますが、リュウキュウカジカガエルはそのタンパク質の遺伝子が他のカエルとは大きく異なっていて、効率よく働くように機能が進化している可能性も出てきました。
未だに謎なのは、人工的な飼育では、40度までは生きることができても、成長はしないということ。口之島のオタマジャクシは成長しています。
温泉成分に成長を促進する成分があるのでは、と考えています。もう一つ、水温30度で飼育すると、3週間で成体になることも分かりました。変態が早いといわれるネッタイツメガエルでも成体になるまでには、1カ月はかかります。
オタマジャクシが高い温度に生息するのは生存戦略と関連性があるのでは、と推察しています。
研究の魅力は、誰も知らないことを自分の手で明らかにしていくこと。特に今の時代はいろんなツールがそろっていて、自分の意志さえあれば大抵のことはできます。
自分で乗り越えられたときの喜びは何にも代えがたく、研究の醍醐味でもあります。
これまでの研究から見えてきたことは、環境適応と分布拡大の相関関係で、リュウキュウカジカガエルは、他のカエルが利用できないような極端な環境に適応することで分布を拡大できたことです。
これからはリュウキュウカジカガエルの高温耐性について研究を深化させたいと思っています。
現在はリュウキュウカジカガエルと高温耐性のないカジカガエルの全ゲノム解読を進めています。
ゲノムに刻まれた進化の歴史から適応進化の仕組みを理解したい、と考えています。
※プレスネット2018年7月26日号より掲載
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