2022年1月24日
【広島大学の若手研究者】ボルネオ島の生物の多様性に着目 ジャコウネコで共存メカニズム考察
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
大学院先進理工系科学研究科 助教
中林 雅 さん
研究テーマは熱帯生態学
高校生のとき、兵庫県の博物館が主催の、ボルネオ島のジャングル(熱帯雨林)で1週間を過ごす体験スクールに参加しました。そこでジャコウネコの存在を知りました。肉を食べるのに適応した食肉目の動物なのに、地上30㍍の木の上で果実を一心不乱に食べている不思議さに惹かれたのが、ボルネオ島でジャコウネコを研究するきっかけになりました。
2010年から19年までボルネオ島と日本を行き来する生活を送りました。自動撮影カメラを仕掛けたり、ジャコウネコを追って夜の熱帯雨林を歩き回ったり、樹高60㍍の木に登ったりしながら、地道に生態を研究しました。また、ジャコウネコを通して、動物が植物の種子を運ぶ種子散布という機能の観点で動物と植物の関係にも着目し、植物の分野にも研究領域を広げ調査を行ってきました。
ボルネオ島を含む東南アジアの熱帯は、他の熱帯地域よりも同じ場所に生息する食肉目動物の種数が多いことが知られており、ボルネオ島にはジャコウネコが8種も生息しています。そこで、8種のうち特に近縁な4種に着目して、共存メカニズム(すみ分け)を調査してきました。これまでの研究で、基本的に同じ空間で同じ時間帯に活動して同じものを食べるが、種によって食べる部位や時期が少しずつ違うことが分かってきました。
また、果実を食べるジャコウネコは、種子散布に大きく貢献していることも分かりました。一方で、最大の種(ビントロング)は体重が10㌔あるので狩猟の標的になりやすく、絶滅が危惧されています。今は、そうした種子散布動物の減少が、植物の個体数や生態系に及ぼす影響を調べています。
調査地がジャングルなので、歩くことすら大変です。研究器具や機材を設置しても、ゾウなどに壊されることもしばしば。思うようにいかないことが、研究の難しさですね。だから、失敗しても簡単には諦めないことを心掛けています。
醍醐味は、研究を通じて熱帯雨林の不思議が一つ一つ明らかになることです。ボルネオ島は世界的にも生物多様性が高く、また森林減少が著しい地域でもあります。森林破壊による気候変動などの研究はとても重要ですが、私は、熱帯雨林の動植物がもつ不思議や魅力を明らかにして、熱帯雨林の価値を伝えていきたいです。
東広島市の獣害研究で、イノシシが柵をくぐり畑に侵入した瞬間を捉えた写真
コロナ禍で海外渡航制限が設けられた以後は、東広島市の北部地域で、農作物被害などをもたらす害獣と呼ばれるイノシシやシカなどの生態を研究しています。日本でのこうした哺乳類の研究は十分とは言えず、地域に即した獣害対策を考える必要があります。山の中や山間部の集落の畑に自動撮影カメラを設置して行動を分析しています。この研究が人間と動物のすみ分けに役立つことを願っています。
※プレスネット2022年1月27日号より掲載
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