プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学 大学院統合生命科学研究科 助教
松崎 芽衣 さん
鳥類で生殖システムや遺伝子改変を考察
人の不妊治療や医薬品開発に役立てたい
Contents
学生時代から鳥類の生殖システムの分子メカニズムを研究しています。きっかけになったのは、ウズラの精子を顕微鏡で見たとき。ちょうどオタマジャクシが頭と尻尾を動かして泳いでいるイメージで、とても神秘的でした。その精子の動きと美しさに魅了され、生殖システムの研究に取り組むようになりました。
培養試験中の始原生殖細胞を顕微鏡で観察
鳥類は、交尾後の精子を貯蔵できる「精子貯蔵管」を持っていて、一度交尾をすれば、その後交尾をしなくても貯蔵精子を使って、受精卵を産み続けることが可能です。ニワトリであれば、約3週間、精子を貯蔵できます。精子貯蔵管では乳酸がつくられていて、貯蔵された精子は乳酸の働きで休眠状態となっていることを、博士課程の研究で突き止めました。
精子貯蔵管の顕微鏡写真
では、精子はどうようにして精子貯蔵管に入るのか。ウズラの精子を 使い、精子が貯蔵管に入る仕組みについて調べた結果、ウズラの精子表面に存在する糖鎖が精子貯蔵管への侵入に大きな役割を果たしていることを明らかにしました。
一方、射精された精子が貯蔵管に入る割合は1%未満に過ぎません。どんな精子がメスに選ばれるのか、という研究も行っています。精子は一つ一つで長さが違いますが、精子貯蔵管には長い精子が多く貯蔵されていることが分かってきました。そのことが、子孫を多く残すための戦略なのか。そして、メスに好まれる精子がどのように作られるか、明らかにしていきたいと思っています。
生殖システムと並行して、取り組んでいるのが遺伝子改変技術の研究です。哺乳類では、ゲノム編集が普及してから、より簡単に遺伝子を書き換えることができるようになりました。一方で、鳥類では細胞分裂を始める前の受精卵を腹から取り出すのが難しく、卵自体も巨大で操作が しづらいことから、遺伝子改変が難しいのが実情です。そこで、鳥類では、将来生殖細胞となる「始原生殖細胞」を発生途中の胚から採取し、始原生殖細胞へ遺伝子改変した後に、別の胚に細胞を移植して改変個体をつくる方法が考えだされました。
ただ、この方法は、ニワトリ以外の鳥類では、始原生殖細胞の培養が難しいのが欠点。このため、鳥類の産卵直後の受精卵へ直接ゲノム編集ツールを導入し、効率的に遺伝子を書き換えた鳥類を作る研究に取り組んでいます。
鳥類はユニークで面白い生殖のシステムを持っています。遺伝子改変と合わせ、一つ一つを解き明かしながら、人の不妊治療や、医薬品・食品産業の応用に役立てられれば、と思っています。シンプルに「知りたい」という思いを大切にしながら、チャレンジ精神を持って研究に向き合っていきます。
※プレスネット2022年6月30日号より掲載
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