プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学 大学院統合生命科学研究科 助教
山田 恭史 さん
口と両耳、小さな脳での3次元空間把握能力を研究
数理学・動物行動学・工学にわたる包括的な視点で再現
Contents
子どものころからモノ作りと生き物が好きだったことから、同志社大学工学部へ進学し、主にコウモリの行動パターンから障害物を回避するときのナビゲーションを研究していました。コウモリを初めて捕獲しに行ったとき、暗闇の洞窟の中で無数のコウモリがぶつかることなく飛び回っている様子に衝撃を受けました。コウモリは自ら発するパルス(超音波音声)に対するエコー(反響音)を使って、周囲の環境を把握する「エコーロケーション」で飛んでいます。視覚は退化しているので、発信器となる口、受信器の両耳、そして小さな脳だけで3次元空間を定置しています。そんなコウモリの能力、超音波のポテンシャルの高さに感動しました。それが私の研究の出発点です。
超音波センサを搭載したドローンを用いて、飛行中にポール(障害物)認識テストを行う様子
コウモリは右に曲がりたいときは、右の方向に超音波パルスを打っています。行きたい方向へ超音波パルスを放射し、進む方向を変化させています。私はこのパルス放射方向を「音の視線」と呼んでいます。この音の視線制御のルールと障害物を避ける制御を数式化した「コウモリ模倣ナビゲーションシステム」を自律走行車に搭載して、有用性を検証しました。コウモリ由来の音の視線制御がない場合は、走行経路のばらつきや障害物への衝突が増えました。つまり、コウモリの音の視線の使い方は、確かに理にかなっていたのです。
そして今、ドローンにこのシステムを搭載し、実機検証をしています。ドローンは飛行ノイズが大きく、超音波システムと相性が悪いと言われてきました。しかしコウモリは100匹単位で生活し、音がたくさんある混信環境で生きています。つまり、自分の声だけ聴き分ける能力、ノイズに強い能力があるということ。そこに可能性を見出し、実証実験を重ねています。
世界中の研究者が敬遠するドローンと超音波ナビゲーションの運用。これを、コウモリと同様に1送信器(スピーカー)、2受信器(マイクロフォン)、そして小さなコンピューターを搭載し、コウモリを模倣した方法から障害物を回避できるナビゲーションで実現できたら世界でオンリーワン! まもなく完成です。
自作の計測用マイクをはんだ付けで修理する様子
昨年の東京オリンピックの開会式で、ドローンが上空で隊列を組んで飛ぶ様子が話題になりました。私は美しく隊列したドローンよりも、コウモリのようにごみごみとした環境を一見無秩序に飛び回るのを見てみたい、再現したいのです。それぞれが好き勝手に動いているけど安全を保つなんて、すごいシステムだと思いませんか。
将来の夢は、コウモリと一緒に暮らせるほどのロボットを作ること。皆さんにもぜひ、機会があれば洞窟でコウモリの能力を感じてほしいです。
※プレスネット2022年5月26日号より掲載
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