広島大の越智光夫学長が4月から2期目に入った。インタビューで大学の将来像や、東広島市での大学の位置付けなどについて語った。越智学長は「100年後にも世界で光り輝く大学に」と目を輝かせる。
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広島大は、被爆地広島に開学し、「平和を希求する精神」を理念の一つに掲げ、平和への寄与を通して、国際社会に貢献する人材の育成を目指す総合大学だ。
その人材育成の基盤となるのが教養教育。広島大ならではの独自のカリキュラムで、学生たちの学びの土台を培っている。
教養教育は学部生の1年生が対象。専門以外の分野へも関心を高めてもらい、ものごとを総合的に捉える能力を養っていく。
教育企画担当で総合科学部の林光緒教授は「教養教育は草 木で例えると根の部分。根っこが広がることで幹が太くなり実も付く。いろいろなことに興味を持つことで視野が広がり、複眼的な視点で専門分野を研究できる。何より社会は幅広い見識を持った人材を求めている」と力を込める。
教養教育には、平和科目、大学教育基礎科目、共通科目、基盤科目の4科目がある。平和科目は28科目から1科目を選択する。留学生を含む全新入生が必修だ。戦争や紛争から貧困、人口増加、環境までさまざまな分野がある。平和を希求する大学として、「持続可能な社会」までを視野に入れた広義の平和について考えていくのが特徴だ。
大学教育基礎科目には、大学教育入門と教養ゼミがある。大学教育入門は、大学で学ぶべきことの意義やレポートの作成方法、ハラスメント問題など、大学生活を送る際に必要となる知識や規範を身に付けていく。
全部で15章ある中で、ユニークなのが、各界で活躍するリーダーを講師に招いた「世界に羽ばたく。教養の力」。おととしから始まり昨年から全学部必修となった。林教授は「学生たちは、世界で活躍するリーダーの生きざまに触れることで、将来の指針となる何かをつかんでほしい」と話す。平和科目と大学教育入門も他大学にはない科目だ。
全国の大学に先駆けて平成9年から始まった教養ゼミは、約10人単位でディスカッションやグループ学習などに取り組む。
「大学は自ら考え学ぶところ。入学後の早い段階から、その習慣を身に付けてほしい」(林教授)からだ。問題発見・解決型の授業を行いながら、論理的な思考法や自己表現力を育んでいく、という。
共通科目では外国語や情報など5科目で幅広い知識と技能を身に付ける。基盤科目は専門分野を学ぶために必要な基礎的な知識の修得を目指す。
広島大が教養教育で大きな目標にしているのが能動的な授業だ。大教室での講義形式の授業であっても、授業の合間に学生に問い掛けたり、コメントシートを書かせたり、と工夫次第で能動的な授業は可能になる、という。
林教授は「大学では、専門教育と教養教育は車の両輪。教養教育の充実が専門教育の質を高める」と言い切る。
学長に就任以来、「平和を希求しチャレンジする国際的教養人の育成」をスローガンに掲げてきた。その思いは変わらない。2019年度から統合生命科学研究科と医系科学研究科の設置を皮切りに、大学院再編を本格化させた。
2019年6月現在、11ある研究科を5つに再編、研究科間での垣根を低くする ことで他の領域も学べるようにし、領域での力を高めていく。世界中からトップクラスの研究者や優れた留学生を招き入れるためにも、教育研究環境の充実は待ったなしだ。
東広島キャンパスでは、宿泊施設や交流の場を備えた国際交流拠点を整備し、理系の世界的な研究拠点として強化を図る。
東千田キャンパスは、新たな人 文・社会科学系の教育研究拠点として、霞キャンパスは世界レベルの最先端医療と医系科学の研究拠点として、それぞれ位置付け整備を進めていきたい。
トップ100に入るのは、平成の後半、文科省の研究大学強化促進事業と、スーパーグローバル大学創成支援事業トップ型に採択された広島大にとっては、社会との約束でもある。
この目標を達成するために、ランキングの指標となる留学生数や英語論文数、企業からの外部資金の割合など5項目で目標を確認している。
また、各教員の教育や研究を数値化する独自のシステムも開発した。道は平たんではないが、全学で一丸となって努力していきたい。
忘れてはならないのは100年後にも世界で光り輝く中四国の拠点大学にしていくこと。大きな目標でありトップ100に入ることは、その過程だと思っている。
東広島キャンパスは広島大の中核となるキャンパス。一方、東広島市にとっ ても広島大は学術・教育の一大拠点であるのみならず、雇用や消費などさまざまな波及効果をもたらす基幹的な存在であると思っている。
欧米では大学を拠点に都市が形成されている。東広島市も大学のシーズを生かしたITやライフサイエンスの企業が立地する米国・シリコンバレーのような元気な街になってほしい。
東広島市の課題は交通アクセスの問題。広島大としても、東広島市と連携し大学周辺にバス乗り継ぎの結節点を設置するなど、交通ネットワークの整備に取り組んでいく。
一言で言うと真面目。そのことはとても良いことである半面、控えめで地味とも言われている。
私は学長に就任以来、広島大の学生や卒業生であることに誇りを持ち、胸を張って社会にアピールしようといい続けてきた。誇りに思わなければ、世間から評価はされない。
近年は起業家も出ている。真面目さを武器にリーダーシップを取ってもらい、社会を変革するような人になってほしい。
昨年夏の西日本豪雨災害では、学生の有志が立ち往生していた車のドライバーにおにぎりを作って差し入れた。自らの頭で考えやるべきことを実行に移した。これこそ広島大生といえるのではないか。
大変革の時代だからこそ、how(どうのような方法で)だけではなく、why(どうしてなのか)をじっくり考える人になってほしい。その意味でも、専門分野を極めると共に、幅広く深い教養を身に付けてほしい。
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プレスネット2019年6月20日号より掲載
投稿者名: プレスネット