プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
両生類研究センター助教
井川 武 さん
研究テーマは進化生物学
リュウキュウカジカガエルの幼生考察
46度の温泉に生息 極限環境に適応分布拡大
研究対象にしているのは、日本の南西諸島に生息するリュウキュウカジカガエルです。
2013年、トカラ列島にある口之島の現地調査をした際に、リュウキュウカジカガエルの幼生(オタマジャクシ)が、これまで記録された中では最高温度となる46.1度の温泉で生息しているのを発見しました。
今は、ゲノム進化の観点から、このカエルの高温耐性の仕組みをつまびらかにするための研究を続けています。
小学生のときから、時代をさかのぼって考える歴史や科学全般が好きだったことで、進化の分野に興味を持つようになりました。研究の対象に両生類を選んだのは、広島大に両生類の研究施設があったからです。
研究の出発点は、地理的な観点から生物の進化を考える系統地理学です。
日本に生息する2系統の日本産ヒキガエル(二ホンヒキガエルとアズマヒキガエル)は、遺伝的には2系統に分かれています。
過去にそれらを分ける障壁があったと考えられ、DNA配列に基づいて推定した結果、約500万年前に日本列島が二つに分断された時期に2系統に進化したものと推察できました。
その後、南西諸島で絶滅危惧種に指定されている両生類の遺伝的多様性に関する研究に取り組みました。この研究では遺伝子解析に地形解析を組み合わせて、絶滅危惧種が島の中でも遺伝的に分化している仕組みを明らかにしました。
絶滅危惧種は様々な環境要因に依存していて、限られた場所でしか生息できません。生息地が連続していないと集団間の移動分散ができないために遺伝的分化が生じることが分かりました。
それとは対照的に台湾からトカラ列島まで広く分布しているリュウキュウカジカガエルには、多様な環境条件を克服する生理的な適応力が分布拡大の要因にあるのでは、との思いが膨らみ、リュウキュウカジカガエルの研究が始まりました。
口之島での現地調査
気温の高い亜熱帯でもオタマジャクシが生息する水温は高くても30度程度が限界です。
水温40度を超える口之島のセランマ温泉で、オタマジャクシがいることに気付いたときは驚きました。台湾の温泉でも生息が確認されていましたが、46.1度で生息しているオタマジャクシは、世界広しといえども口之島だけでしょう。
オタマジャクシを研究室に持ち帰り、人工的に温度を変えて調べると、40度までは、長時間生きられることが分かりました。
普通、生物には高温に対処するためのタンパク質がありますが、リュウキュウカジカガエルはそのタンパク質の遺伝子が他のカエルとは大きく異なっていて、効率よく働くように機能が進化している可能性も出てきました。
未だに謎なのは、人工的な飼育では、40度までは生きることができても、成長はしないということ。口之島のオタマジャクシは成長しています。
温泉成分に成長を促進する成分があるのでは、と考えています。もう一つ、水温30度で飼育すると、3週間で成体になることも分かりました。変態が早いといわれるネッタイツメガエルでも成体になるまでには、1カ月はかかります。
オタマジャクシが高い温度に生息するのは生存戦略と関連性があるのでは、と推察しています。
研究の魅力は、誰も知らないことを自分の手で明らかにしていくこと。特に今の時代はいろんなツールがそろっていて、自分の意志さえあれば大抵のことはできます。
自分で乗り越えられたときの喜びは何にも代えがたく、研究の醍醐味でもあります。
これまでの研究から見えてきたことは、環境適応と分布拡大の相関関係で、リュウキュウカジカガエルは、他のカエルが利用できないような極端な環境に適応することで分布を拡大できたことです。
これからはリュウキュウカジカガエルの高温耐性について研究を深化させたいと思っています。
現在はリュウキュウカジカガエルと高温耐性のないカジカガエルの全ゲノム解読を進めています。
ゲノムに刻まれた進化の歴史から適応進化の仕組みを理解したい、と考えています。
※プレスネット2018年7月26日号より掲載
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投稿者名: プレスネット