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【広島大学の若手研究者】スマホ接続型眼底カメラ開発

2024年3月28日

【広島大学の若手研究者】スマホ接続型眼底カメラ開発

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

広島大学病院眼科医/助教
水野 優さん

広島大学病院眼科医/助教 水野優さん

眼底疾患に対応、眼科医の遠隔診療に期待

■眼底カメラ開発のきっかけ

 県内のへき地の病院や、島しょ部の患者さんが多い県立広島病院で患者さんを診察していると、眼底疾患である糖尿病網膜症や緑内障にり患し、末期の状態まで進行している患者さんが多いことに気が付きました。早期に受診をしなかった理由を尋ねると、家の近くに眼科医がいなくて、眼科の受診がおっくうになっていたと答える患者さんが大半でした。
 30年前には、糖尿病網膜症も緑内障も早期に病気を診断できても、進行を抑えることができず、失明を待つしかなかったのが現実です。しかし、近年は治療法が確立され、早期に診断・治療を始めれば失明を防げるようになってきました。眼科の受診が困難な患者さんを何とかしてあげたい、と思ったのが、遠隔診断に使うスマートフォン接続型の眼底カメラ開発のきっかけになりました。

■コロナ禍が開発を加速

 コロナ禍で医療分野でも遠隔診療が進むようになり、そのタイミングで、研究開発に必要なスマホなどのデバイスや人工知能(AI)などが専門の大学内の先生たちとチームを組めたことが、眼底カメラの開発を加速させてくれました。
 眼科医は、特殊なレンズと光を発生する光源を組み合わせて眼底を診ますが、それには熟練の技術が必要です。診断する眼科医の目を、そのままスマホとレンズで再現させたのが眼底カメラです。AIの技術を使って、眼底カメラで撮った動画から、正確な眼底の箇所を静止画として抜き出すことができました。眼底カメラの開発は、今年3月、中国地方の女性を対象にしたビジネスプランコンテストで大賞を受賞、これからの研究の励みになりました。

自分たちの目を使い、スマホとレンズで眼底カメラの実験をしている様子
自分たちの目を使い、スマホとレンズで眼底カメラの実験をしている様子

■次の一手

 開発した眼底カメラを医療機器として承認してもらったり、保険診療で扱ってもらえたりできるよう準備を進めています。眼科以外の医療従事者が撮影した画像を、眼科医が遠隔で診断できる仕組みづくりを目指し、眼科受診困難者の解消に努めます。
 大切なのは、テクノロジーだけで終わらせないこと。静止画像をもとにAIが診断できるようにしますが、データには必ず専門の眼科医をひも付けし、早期発見、早期治療に結び付けていきます。チームのメンバーを中心にスタートアップの企業を立ち上げ、今年中に社会実装ができれば、と願っています。

3Dプリンターを使い、眼底カメラの試作機を製作
3Dプリンターを使い、眼底カメラの試作機を製作

■心に留めていること

 「人事を尽くして天命を待つ」ですね。命を預かる医学の世界では、人の最期の最期は神の領域です。ただ、そこに至るまでは、決してあきらめない、医者としての努力が求められます。これからも「みんなが100歳まで明るい世界を」を目標に掲げながら、一人でも視覚障がい者が減ることを願って、治療・研究に当たりたいと思っています。

PROFILE
2011年、広島大学医学部医学科卒。三井記念病院、東京大学医学部附属病院を経て、15年、広島大学病院に。21年、広島大学病院臨床研究開発支援センター助教。23年、広島大学医歯薬保健学研究科博士課程修了。

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2024年3月1日

【広島大学の若手研究者】地震防災の研究 より精度の高いハザードマップを作成したい

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院先進理工系科学研究科 建築学プログラム准教授
三浦 弘之さん

三浦弘之さん

AI活用、能登半島地震の実態把握

■研究者をめざすきっかけ

 高校3年の時、阪神・淡路大震災が発生しました。当時、祖父母が神戸市内に住んでいたので、その被害を目の当たりにし、地震のエネルギーの大きさに驚きました。この地震をきっかけに、地震災害の軽減に役立つ勉強をしたいと強く思いました。

■建築防災学研究室での研究内容

 大地震がいつ発生しても、被害を最小限に抑えられる都市や社会をつくることを目指して研究しています。地震が発生した時の地面の揺れの大きさや建物の被害の大きさ、数などを詳しく予測して地震被害を軽減する研究と地震が発生した後、被害をいち早く把握するために、人工衛星や航空写真のリモートセンシング技術と地理情報システム(GIS)を利用し、どこでどの程度の被害が発生したのかを自動的に判定する技術の開発を行っています。

■研究の成果

 阪神・淡路大震災と熊本地震の被災地を捉えた約1万枚の航空写真データをAI(人工知能)に学習させ、画像に写った建物が倒壊しているかを誤差なく自動判別できるプログラムを開発しました。能登半島地震では、AIの技術を活用し能登半島を撮影した人工衛星の画像を分析して、早期に実態を把握することができました。さらに精度を上げて、今後の災害に生かしていきたいです。

2024年能登半島地震での被害調査の様子
2024年能登半島地震での被害調査の様子

■研究のやりがいと難しさ

 いつ発生するか分からない地震に、限られた情報でチャレンジし精度を上げて予測するのはとても難しいですね。地震研究で得られた成果が、日本に限らず、世界のさまざまな地域で活用され災害軽減に貢献できることにやりがいを感じます。

■これからの研究目標

 自治体が公開している地震のハザードマップは、地盤の情報が簡略化されているので、AI技術を活用し場所ごとに地盤の詳しい情報を反映した精度の高い地震の揺れを予測して、より詳細なハザードマップを作成したいと思います。

調査で使用する微動計。地盤や建物の微少な振動を計測できる
調査で使用する微動計。地盤や建物の微少な振動を計測できる

■能登半島地震で感じたこと

 現地に行き調査しましたが、耐震性が低い古い木造の建物が多く倒壊していました。道が崩落し孤立した集落が出ていたので、被害の状況の把握が難しいということを改めて感じました。県内でも今回の規模の地震が発生すれば、同じような被害が起こり得るので大地震がいつ起きても大丈夫なように備えを進めてほしいです。

■市民へ

 自宅を安全な場所にし、自分の身は自分で守ることが防災の基本です。地震のハザードマップを見て自宅がどういう場所に建っているのか確認し、1981年より古い家屋は地震に弱いので耐震診断を受けて、危険であれば耐震補強などを検討することが重要です。日本全国どこに行っても安全な場所はないと思って、普段から地震などの災害対策を考えてほしいと思います。

PROFILE
1976年兵庫県生まれ。2004年東京工業大大学院総合理工学研究科博士課程修了。同大都市地震工学センター21世紀COE研究員、同大大学院総合理工学研究科人間環境システム専攻助教を経て現職。

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2023年11月29日

【広島大学の若手研究者】目指す社会、大事にしたい価値を考える

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院人間社会科研究科 人間総合科学プログラム 准教授
澤井 努さん

澤井 努さん

先端科学技術の倫理的課題を研究

目指す社会、大事にしたい価値を考える
価値に関わる問題を議論し未来をつくる

■先端分野の「どうすべきか」問題

 倫理学が専門で、最近は科学・医学・工学の先端分野で生じる「ELSI/RRI」を研究しています。ELSIとは倫理的・法的・社会的課題(Ethical,Legal,andSocialIssuesの略)のこと。責任ある研究とイノベーションと訳されるRRI(ResponsibleResearchandInnovationの略)は課題が生じてから研究するのではなく、研究・技術の開発段階からどういう社会を目指したいか、社会でどういう価値を大事にしたいかを先行して議論する研究・実践です。
 米を品種改良によって寒さに強くし収穫量を確保する、また食糧難を解決するために肉量が1.5倍の鯛を開発するのはどうでしょうか。新しい研究や技術は私たちの生活を快適にしてくれる一方で、食の遺伝子に介入することへの根強い抵抗感もあります。研究・技術が社会にもたらしうる課題を洗い出したり、複数の未来像を描き、そうした未来像から現在の研究・技術のあり方を問い直したりする研究をしています。
 科学者などは自然・生命現象を解明するという意味で事実を扱いますが、倫理学者は個人・社会がどうあるべきかという価値を扱います。私は応用倫理学者として、事実と価値の接点で研究しています。

高校生・大学生・大学院生を対象に、脳科学の未来を考えるワークショップを開催。
高校生・大学生・大学院生を対象に、脳科学の未来を考えるワークショップを開催。広島大学きてみんさいラボ(広島市南区)にて

■自分ならどう答えを出すか

 父親はインド哲学が専門の宗教学者で、兄はイスラーム哲学が専門の宗教学者。おのずと宗教学や哲学、倫理学に興味を持ちました。修士課程では近世の日本思想を研究していましたが、オックスフォード大学に留学した際に応用倫理学分野の第一人者であるジュリアン・サヴァレスキュ教授に師事しました。
 サヴァレスキュ教授との初回ミーティングで山中伸弥教授のノーベル賞受賞の報道が話題になり、「今は賞賛ムードのiPS細胞だけど、これからどんな問題が提起されるかはまだ考えられていない。面白いテーマでは?」と提案されました。研究の先にどんな問題が生じるのか、研究をどこまで進めるのか、そしてそもそも自分はそうした問題にどう答えを出したいのか。今では研究者としてそうした問題に取り組んでいます。

澤井准教授の著書
澤井准教授の著書

■よりよい未来を一緒につくりたい

 こうした議論はどうしても研究者が中心になります。生活に強く関連しているにもかかわらず、生活者が議論に参加する機会はほとんどありません。私は研究や技術の開発段階から社会を巻き込んでいきたいと思っています。国民全員で議論するのは不可能ですが、さまざまな層の人が集まり私たちの社会の未来を考える機会や議論する場をつくりたい。その一環として今年9月に、高校生や大学生・大学院生を対象にイベントを実施しました。
 研究・技術開発の先に、私たちや将来世代が利益・不利益を受け取りますよね。重要な問題を社会で考えて、よりよい答えを見つける。そうした一度出した答えも時代に合わせて更新しながら、未来を全員でつくっていきたいと考えています。

PROFILE
天理大学国際文化学部を卒業後、京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了(博士 人間・環境学)。博士課程在籍中、休学してオックスフォード大学に留学。京都大学iPS細胞研究所、同大ヒト生物学高等研究拠点を経て、2022年より現職。23年から広大卓越大学院「ゲノム編集先端人材育成プログラム」プログラム担当教員、シンガポール国立大学医学部生命医療倫理センター客員准教授も務める。

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2023年10月22日

【広島大学の若手研究者】漁業も生態系も守りたい

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院統合生命科学研究科 助教
河合 賢太郎さん

河合 賢太郎さん

専門は魚の繁殖生態

漁業も生態系も守りたい 

■広島湾のクロダイ

 大学3年時から主に広島湾のクロダイの産卵生態について研究を続けています。釣り人からは、〈ちぬ〉の名で親しまれ、日本人には身近な魚ですが、産卵生態はほとんどわかっていなかったため、クロダイについて調べてきました。

南極観測の隊員として南極で魚の生態を研究
南極観測の隊員として南極で魚の生態を研究

■産卵を調べる方法

 私は主に瀬戸内海の魚の産卵を調べていますが、その方法は四つあります。一つ目は魚を釣って生殖腺組織や耳石を観察する方法です。生殖腺の発達状態や耳石を調べることで、魚の産卵年齢などを特定することができます。二つ目は、海水魚の多くが大量の卵を海中にばらまくように産卵する性質を利用しています。ネットを海中に落として卵をすくい、その分布などから産卵期や産卵場を特定していきます。三つ目は魚に超小型の発信機を取り付けて追跡し、魚の行動を調べるバイオテレメトリという技術です。産卵魚の行動を秒単位で明らかにすることができます。

 四つ目は海水に含まれる生物由来のDNAを解析する環境DNA調査です。この調査は海水をくむだけですむため、貴重な産卵魚を殺す必要がなく、資源保護や調査コストの削減の面からも優れています。

■クロダイ研究から見えてきたこと

 一言でいうと、クロダイが人間のつくりだした生活・環境に合わせているということです。産卵期は、30年前と比べると、水温上昇の影響で2週間ほど早くなっていると考察できました。産卵場所は、かき養殖場のいかだ近くで、日没前後に盛んに産卵していることがわかってきました。クロダイは産卵期のあいだ、1カ月間ほぼ毎晩産卵します。産卵に必要なエネルギーの補給(摂餌)を考えた時、養殖場には餌となる付着生物が多く、餌を探す手間も省けます。大型のクロダイにとっては、養殖場は高級マンションのように居心地の良い場所になっているのでしょう。

かきいかだの上に仮設したラボで魚卵を観察
かきいかだの上に仮設したラボで魚卵を観察

■クロダイ以外にも

 瀬戸内海を代表する高級魚として知られるキジハタの産卵生態研究を進めています。キジハタは世界的には絶滅危惧種ですが、瀬戸内海では漁獲が増えている魚です。瀬戸内海のキジハタの生態を調べることが、世界のキジハタを増やすモデルになればと思っています。また、昨年11月から今年3月まで南極観測隊員の一員として参加し、暗く冷たい南極の海に住む魚の謎に包まれた産卵についても研究しています。

■これからのこと

 身近な魚の産卵研究を通じて、漁業者の生活と魚の生活(生態系)のどちらも守るためには、どのようにバランスをとればいいか考えていきたいです。産卵期の魚は脂が乗らず高値が付かないため、漁獲を控えて資源を増やす、旬の時期には脂がのった魚を適正量獲り、みなさんにおいしい魚を食べてもらう、というのが一つの理想形です。おいしい魚を食べ、魚に興味を持つ人が増えてくれることが、漁業者の生活と生態系を持続的に守るための第一歩と考えています。

PROFILE
1994年、広島県生まれ。2016年3月、広島大学生物生産学部卒業。21年3月、広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程後期修了。21年4月から現職。22年11月~23年3月、第64次南極地域観測に夏隊員として参加。

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2023年9月27日

【広島大学の若手研究者】骨から全身を元気に若返り スマイルエクササイズの開発・研究

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院人間社会科学研究科 准教授
黒坂 志穂さん

黒坂 志穂さん

専門は健康科学

骨から全身を元気に若返り 
スマイルエクササイズの開発・研究

■研究のきっかけ

 私は4歳から20年間、競泳競技を行ってきました。しかし、日々のトレーニングにも関わらず、骨は弱く、低体温で、常に体のだるさや眠気がありました。アスリートにも関わらず、このような不健康に疑問を感じ、筋トレや筋膜リリース、ストレッチなど考えつく方法をすべて実践したのですが、全く改善しませんでした。そんな時、骨の健康法を提唱している勇崎賀雄先生に出会い、理論を学び実践するうちに、みるみる体が健康になり、今では幼少期よりも元気に溢れ、快活になりました。そのため、現在は「骨」に着眼した健康効果の検証を行っています。

シンガポールで開かれた国際学会ポスタープレゼンテーション賞受賞
シンガポールで開かれた国際学会ポスタープレゼンテーション賞受賞

■総合的な代謝をつかさどる骨

 骨は白くて硬いだけの運動器だと思われがちですが、実は違います。血液を造り、カルシウムの調整を行い、免疫細胞をつくり、ホルモンの調整まで行って体を支えています。血液の99%を占める赤血球は酸素を運搬し代謝をつかさどっているので、骨を元気にすることは代謝系統全般を活性化することに直結します。また、骨は単体として強化した際の骨密度の増加のみならず、骨の端っこである「関節」へアプローチすることで、適切な可動域を改善できます。さらに全体として「骨格」を構成しているので、そのゆがみを調整することで、総合的な体のバランスを改善することが可能です。

■全身の臓器の若さを保つ骨

 大腿骨を骨折すると、4~5人に1人が1年以内に死亡するというデータがありますが、死に至らなくとも、骨量が減ると全身の臓器に悪影響が出ることが報告されています。この背景には、骨を作る細胞の働きが関係しています。骨芽細胞は、骨をつくる際に、たくさんのホルモンを分泌しており、それが血管を通じて他の臓器に送られ、全身の臓器の機能を向上させるー若さを保つ働きをしています。そのため、骨粗しょう症になることは、骨折のみならず全身の老化も進んでしまうことに留意しなくてはなりません。

JAひろしま女性部の健康体操教室風景
JAひろしま女性部の健康体操教室風景

■骨の強化は気軽にできる

 骨は、「負荷」と「振動」を与えることで強くなります。またそれらは低強度で良いことが判明しており、簡単な貧乏ゆすりや、手に空気を含んだ状態で関節をポコポコ叩くなどの方法で、イスに座った状態でも、気軽に骨は強化できます。
 実際に、私が実施している体操教室では、全体のプログラムの3分の2をイスに座って行いますが、参加者の方々の骨は強くなり、運動機能は改善し、姿勢も美しくなっています。また、顔の骨も加齢により骨粗しょう症になるのですが、頭蓋骨にアプローチし、しわの減少や小顔効果など、実際に見た目が若返る効果も実証されています。

■スマイルエクササイズ教室

 ツイッターやインスタグラムで無料の教室情報を発信しています。ぜひフォローして参加ください。

X(旧Twitter)お手持ちのスマートフォンカメラで。
X(旧Twitter)お手持ちのスマートフォンカメラで。
インスタグラム QRコードを読み込みサイトへ。
インスタグラム QRコードを読み込みサイトへ。
PROFILE
1984年、鳥取県生まれ。米子東高卒。広島大教育学部卒。2010年、広島大大学院教育学研究科博士取得。福山平成大学健康スポーツ科学コース講師を経て、16年から現職。

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2023年8月28日

【広島大学の若手研究者】制御モデル化し設計開発 産業応用視野に人材育成にも力

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院先進理工系科学研究科 准教授
脇谷 伸さん

脇谷さん

研究分野は制御工学

制御モデル化し設計開発
産業応用視野に人材育成にも力

■制御工学

 制御とは、何かを思い通りに操ることですが、現在の世の中では、大半のモノは制御され、その技術は自動車やロボット、電気製品、工業機械など、いろいろなところで産業応用されています。モノを思いのままに動かす面白さと、新たな可能性を追い求め研究を続けています。

子どもたちに自動車が動く仕組みを伝える脇谷さん
子どもたちに自動車が動く仕組みを伝える脇谷さん

■スマートモデルベース開発(S-MBD)

 今、取り組んでいる研究テーマです。MBDに基づく制御システム開発では、実機(制御対象)およびコントローラ挙動をすべて数理モデル化し、バーチャル空間でシミュレーションによる検証を行いながら最適な制御システムの設計開発を行います。MBDを活用することで、実機(モノ)ありきで、制御の検証を進めていくのと違って、製作工程の大幅な短縮やコスト削減が図れることから、近年、産業界で積極的に導入が進んでいます。
 ただ、実際には制御対象の完璧なモデル化は難しく、ある程度のモデルをつくってコントローラ構造を決定したら、実際にモノを動かしながらデータを取得し、コントローラを再調整するという大きな枠組みで、設計開発を進めています。
 サッカー選手を例にとると、対戦相手やフィールド(制御対象)を事前にモデル化し、選手自身(コントローラ)の動きをイメージトレーニングするまでがMBDによる制御システム設計。実践を通じてさらに相手の情報を収集して自身の動き(制御の方法)を修正していくといったイメージです。これをモデルとデータを融合したスマートMBDと呼んでいます。

■研究と教育

 実際の産業現場では、MBD概念はわかるものの、実際の仕事にどのように適用すべきか悩むエンジニアが多く見受けられます。
 このため、2016年にMBDの専門人材を育成する「MBD基礎講座」が広島大に設立され、19年には「デジタルモノづくり教育研究センター」が内閣府の交付金を受け発足、社会人を対象に人材育成のカリキュラムを構築しました。これらの活動によって培われた広島型MBDの振興と普及を使命に、広島大発のベンチャーを興すことになり、21年、(一社)デジケーションを設立しました。
 デジケーションでは、数学(算数)・理科・プログラミングなどを横断的に活用する力としてMBD的思考を提唱しています。自動車を題材としたMBD的思考を育む教育を小学生から大学生まで一気通貫して実施する取り組みも行っています。もともと教員志望だったこともあり、研究と同じくらい、教育にも比重を置いています。

自動車を題材としたMBD教材の開発
自動車を題材としたMBD教材の開発

■だいご味と難しさ

 難しい数式を使ってモノが動く真理を追究するのが制御工学。ただ、産業応用を考えたとき、コントローラが複雑すぎると使う側の企業からは敬遠されがちです。難しい数式から要点を抽出し、性能を担保しながら使いやすいコントローラを構築する―。産業応用を意識した研究のだいご味でもあり難しさでもあります。

PROFILE
2007年、三重県の国立鈴鹿工専卒。09年、広島大教育学部卒。13年、広島大大学院工学研究科博士課程後期修了。同科講師などを経て、21年から現職。同年から(一社)デジケーション代表理事も務める。

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2023年7月24日

【広島大学の若手研究者】ウチワエビの生態研究と養殖技術の開発

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

統合生命科学研究科 生物資源科学プログラム 准教授
若林 香織さん

若林さん1

ウチワエビの生態研究と養殖技術の開発

クラゲにへばりついて成長する仕組みにワクワク
エビを養殖し食卓へ、新たな水産資源や課題解決に

■高級エビを養殖したい

 ウチワエビというエビを人工的に生産する技術の開発をしています。
 ウチワエビは、うちわの形をしたエビで、高級魚のイセエビと並ぶおいしさで知られています。中国地方では山口県や島根県の松江等で水揚げがあり、100%が天然資源。これを人工的に育てることができれば、漁獲量が減っている天然資源を保護する一歩になり、食卓ではエビを気軽に楽しめるようになります。また、ウチワエビは昆虫でいう幼虫の時期「幼生期」にクラゲを食べて成長するため、瀬戸内海で大量に発生し漁業者を苦しめているクラゲの利用価値の発見にもつながります。さらに、このエビは瀬戸内海の新たな水産資源になる可能性も秘めています。

若林さん2
ウチワエビの幼生が、海でクラゲにのって浮遊している様子

■クラゲにのった面白い生物

 ウチワエビの養殖技術の研究は、以前所属していた東京海洋大学の研究室に水中写真家から「クラゲにのっている生き物がいた」という情報が寄せられたことから始まりました。生き物はウチワエビの幼生で、クラゲを餌として食べることは発表されていました。「研究室でもクラゲを餌にウチワエビを育てられるのでは」という気づきがあり、養殖技術を研究するプロジェクトが立ち上がりました。 このプロジェクトに参入し、東京海洋大学で技術開発を試み、さらにイセエビ研究の第一人者であるオーストラリアのブルース・フィリップス教授の下でも研究。ウチワエビモドキという別の種でも、同じ方法で稚エビを得ることができました。
 この留学を後押ししてくれたのが、現在在籍する広島大学の研究室の前教授。「やりたい分野で世界一の人のところに行きなさい」という助言をいただきました。ご縁ですね。

■研究の可能性

 広島大学では、ウチワエビの養殖技術の社会実装を目指し、幼生が健全に成長する適正の飼育環境や餌を明らかにし、誰でもどこでも養殖できる方法を確立する研究をしています。また、養殖技術を一緒に発展させるパートナーを探しています。例えば、太陽光で動く水の循環装置を使えば、海から遠く離れた砂漠でも養殖できます。世界の食糧不足にも貢献できる可能性もあります。

若林さん3
オーストラリア留学中に、フィリップス先生と

■生きる仕組みが面白い

 虫は苦手、魚もそれほど好きではない私が、生物学の研究を続ける理由は主に二つあります。一つはウチワエビが生き物としてユニークであること。クラゲの体はほとんどが水で栄養分は5%。そんなクラゲをあえて利用して成長する戦略に魅力を感じます。もう一つは、生きる仕組みの面白さ。1つの細胞が分裂して形をつくる点は生き物でほぼ同じですが、その過程での遺伝子の働きで全く違う形になります。さらに他の生物との関係やすむ場所に応じた独自の進化が見られます。例えばウチワエビの幼生の平らな形状はクラゲにへばりつきやすいから、体を水平にすると水の抵抗を受けて沈みにくいから、とか。進化の意味を考えているとワクワクが止まりません。

PROFILE
石川県鳳珠郡能登町出身。富山大学理学部生物学科に進学。同大学大学院博士課程を修了し、ヒトデの発生学で学位を取得。2009年10月から東京海洋大学海洋科学部で博士研究員としてウチワエビの養殖技術の開発に取り組む。東京海洋大学に在籍中に日本学術振興会の特別研究員としてオーストラリアに留学。2015年7月から広島大学で研究を続ける。

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2023年6月27日

【広島大学の若手研究者】専門は自然地理学

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院人間社会科学研究科 准教授
熊原 康博さん

熊原 康博さん

専門は自然地理学

地形から活断層や、人々の暮らしを読み解く
ヒマラヤ調査 インフラ整備や防災教育に活用

■活断層

 地形などの自然現象を調査する自然地理学の中でも、地震が起こりうる「活断層」の調査が研究の柱です。地震学の専門家が難しい数式を使う研究と違い、フィールドワークを中心に、地形や地層から活断層を調べています。
 フィールドワークの場は、地球上最も標高の高いヒマラヤ山脈。大学院生の24歳のときから、毎年、現地を訪れて研究を続けています。

■なぜヒマラヤ?

 ヒマラヤには海がありません。プレート(岩盤)の境界を歩いて、ズレてしまった断層を調査できるのは、世界広しといえどもヒマラヤだけです。自然がそのまま残っており、崖がむき出しで地層がよく見えるのも特長です。直下型地震は活断層の動きで起こりますが、同じ箇所で起こる地層のずれと年代を調べることで、過去、どのくらいの間隔で地震が起こったのか、活断層がどこを通っているのか分かります。ヒマラヤは、1回で10㍍ずれるので、考察しやすいのがメリットです。

ヒマラヤで調査をする熊原さん
ヒマラヤで調査をする熊原さん

■研究成果と活用

 これまでの調査で、ヒマラヤ山脈沿いにあるネパールやブータンで、活断層がどこにあるのかをほぼ把握できました。活断層の分布図など、説明すべき資料はそろっており、今後、本にまとめていきたいと思っています。
 研究の成果は現地のインフラ整備や教育にも役立てるつもりです。発展途上国は、インフラが脆弱です。現地の人に分布図を提供することで、発電所などの重要な施設を建設するときに、活断層の上を避けるなど、地震のリスクを軽減した都市計画プランニングをつくることができます。また、地震の原因が活断層であることを知っている現地の人は少なく、地震のメカニズムや、活断層の周期などを提示することで、防災教育の一端を担えればと思います。

■地形から人々の暮らしを読み解く

 地形からは、地震など災害の歴史だけではなく、先祖がその土地の特性を生かして、工夫してきた過程を読み取ることができます。歴史が専門の先生の協力で、学生らとフィールドワークを重ね、2020年に「西条地歴ウォーク」を、22年に「東広島地歴ウォーク」をそれぞれ出版しました。東広島の景観がどのようにつくられたのか多角的に分析することができます。
 例えば、大きな河川がない東広島市は、ため池がたくさんあります。ため池がつくられた場所には、それぞれに生活の知恵が詰まっており、地形を見ることで、その背景を考察できます。

東広島のため池の前で、つくられた背景を説明する熊原さん
東広島のため池の前で、つくられた背景を説明する熊原さん

■研究のだいご味

 自分だけしか知らない新しいものを現地で発見したときの面白さですね。今まで見向きもされなかったものに、解釈と価値が付けられ、大きくクローズアップされたときの喜びはひとしおです。

PROFILE
1975年生まれ。広島大学教育学部卒。同大学院文学研究科地理学専攻修了。広島大総合博物館助教、群馬大教育学部准教授、広島大大学院教育学研究科准教授などを経て、2020年4月から現職。

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2023年4月24日

【広島大学の若手研究者】悩みを抱える子どもたちをどう支えるか

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院人間社会科学研究科 教職開発専攻 講師
山崎 茜さん

山崎 茜さん

悩みを抱える子どもたちをどう支えるか

子どもの心理・社会的成長・発達を教育で支え
「自分の未来は明るい」と思える社会人に

■少年犯罪が問題となった90年代

 私が中学・高校生の90年代、同年代の子どもたちによる犯罪がニュースになり、身の回りではいじめや不登校が問題となっていました。そのときに感じたのが、その子のことを周りの人が分かってあげていたら結果は変わっていたのではないか、それならどう理解してどのように支えられるだろうか、そんな疑問が今の研究のきっかけです。

児童福祉施設に併設されている学校へ支援に
児童福祉施設に併設されている学校へ支援に

■子どもたちをどう支えるか

 大学は教員養成コースに進みましたが、関心の中心は子どもたちをどう支えるかでした。現在の主な研究テーマも、子どもの心理・社会的成長・発達をどのように教育で支えていくか、です。これから教員になる学生、教員に対して、子どもたちの心理的な成長を支えるために対人関係の発達を支援する目的や意味、子どもたちとのかかわり方を教えています。スクールカウンセラーとして、子どもや保護者、先生にアドバイスもしています。

■関係修復が苦手な子どもたち

 地域のつながりが希薄化し、社会のコミュニケーションが変化。子どもたちのコミュニケーション能力、対人関係力が低下しています。コロナ禍で拍車がかかりました。

 例えば、学校で手をあげて発表したとき、「みんなに変に思われたかな」と一人で悶々(もんもん)と考えてマイナスな考えが膨らんで傷ついていたり。ケンカもデジタルでする時代。嫌なことがあれば「友達」という項目のチェックを外してつながらないようにしたり、シャットダウンして終わりにします。関係性を修復したり、ぶつかったりすることを苦手とする子どもが増えています。小さないさかいの段階で、周りから注意されたりアドバイスを受けたりして関係を修復した経験がなく、人間関係力をつける機会が失われています。

教員やスクールカウンセラー等を対象とした学会の支部主催の研修会
教員やスクールカウンセラー等を対象とした学会の支部主催の研修会

■「困っている」と言える器を

 子どもの人間関係力の発達、心理的な発達には、周囲の人との関係が豊かにあることがすごく大事です。昨年から東広島市と連携してヤングケアラーの研究をしている中で、自分の困り感を出せない子どもたちがたくさんいることが分かりました。「困っている」と言える居場所や器が必要です。そして「言っても分かってもらえない」という子どもの諦めが取り除かれることも重要です。豊かな人間関係をもち、自分の心を打ち明けやすい社会になるといいなと思います。

 地域で心配な子どもを見かけたら、あいさつでいいので声をかけてやってください。「あなたを気にしている大人がいる」ということが伝わるかかわりをお願いします。

■教育は社会を変えられる

 これまでかかわった子どもや研修した教員、指導した学生たちが、自分の未来は明るいと感じて元気になったり、成長していく姿を見たりするとうれしいです。教育は社会を変えられる。子どもたちへの支援を通じて、子どもたちがいい社会人になってくれることを目指しています。

PROFILE
広島市出身。広島大学大学院教育学研究科博士後期課程へ。在学中にスクールカウンセラーを始める。修了後、同大学内の学校心理教育支援室「にこにこルーム」の非常勤教員。2019年度から現職。

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2023年3月27日

【広島大学の若手研究者】研究分野は文化財学

プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤

今回お話を聞いたのは

大学院人間社会科学研究科助教
中村 泰朗さん

中村 泰朗さん

研究分野は文化財学

中世から近世の建築物を復元
建物から歴史の深淵や為政者の思い考察

■文化財学

 歴史を当時の日記や手紙など文字から解き明かしていく学問を文献史学といいます。僕の研究は文化財学という領域で、現地に赴いて建築物の痕跡や現存する古建築を調べたり、図面や写真などから建築物の構造を考察したりしながら、歴史をひもといています。子どものときから歴史が好きだったことが、この研究に進むきっかけになりました。

 中世から近世にかけての大名邸や城郭に築かれた天守、社寺建築の構造について考察を行い、建物が語る歴史的な深淵や背景、為政者の思いなどに迫っています。

現地に赴き古建築物を調査
現地に赴き古建築物を調査

■天下人の城郭建築

 織田信長の安土城、豊臣秀吉の大坂城、徳川家の江戸城について、詳細な復元図を作成し、同じスケールのペーパークラフトで城郭の建物を復元しました。

 安土城と江戸城は現地に残された石垣や発掘調査で見つかった柱の痕跡、大坂城は城が描かれた屏風(びょうぶ)絵や、残されていた1階の平面図などをそれぞれ考察しながら、併せて文献資料を読解し、復元図を引きました。

 信長については革命家の一面がフューチャーされがちですが、実は古い伝統も大切にしていた側面も、復元したことで見えてきました。安土城の天守は斬新ですが、御殿は室町時代の将軍家の伝統的な手法にのっとっていたからです。

 秀吉については、壁に施したきらびやかな彫刻などから、自らの権力と財力を見せつけることで、「秀吉にはかなわない」ことを他の大名にみせつけるために、派手な大坂城を建立したことがうかがえました。徳川3代将軍の家光が建立した江戸城は、安土城や大坂城と比べサイズが大きく、圧倒的な存在感で大名たちを威圧していたことが考察できました。

■消えゆく文化財を憂う

 これまで20~30軒の建物について復元図を引きました。このうち、愛知県の西尾城と岡山城は、僕の復元図をもとに建物が整備されました。自分の研究成果が社会に還元されるのはうれしい限りですが、半面、指定文化財であっても、価値が周知されないまま朽ちていく建造物が多いのも事実です。

 こうしたことを踏まえ、地域の文化財を学生と一緒に調査研究し、その価値を実証。行政に働きかけながら地域の文化財の保全につなげていくことに、今後力を注ぎたいと思っています。地域の建造物でいうと、今、小早川隆景が建てた三原城の価値に注目、研究を進めています。御殿の姿が面白く、安土桃山時代の建物の歴史観がひっくり返るものと思っています。

復元図をもとに製作した大坂城のペーパークラフト
復元図をもとに製作した大坂城のペーパークラフト

■視野を閉じ過ぎない

 研究で心掛けていることです。文化財学は文系・理系双方のさまざまな知識が要求されます。ある側面からの考察に集中し過ぎると、他の情報をシャットアウトすることにもなります。さまざまな角度から俯瞰(ふかん)することは意識しています。

PROFILE
1989年、山口県生まれ。広島大文学部卒。広島大大学院文学研究科博士課程後期修了。2017年4月、八戸工業高専助教。20年4月から現職。

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