2024年12月17日
【広島大学の若手研究者】子どもたちに最低限の質の良い教育を
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大大学院人間社会科学研究科 教育科学専攻国際教育開発プログラム 准教授
谷口 京子さん
専門は開発途上国の教育開発学 論文は英語で。海外の人に読んでいただきたい
開発途上国の教育開発が専門です。児童生徒の学力やその伸びの要因、進級阻害(留年・退学・転校)要因、学校運営などを研究しています。
独立行政法人国際協力機構(JICA)が実施しているボランティア派遣事業で、開発途上国で生活しながら課題解決に貢献する青年海外協力隊に応募し、アフリカのマラウイ共和国に派遣されたことです。マラウイには、中・高等学校の理数科教師として2007年から2年間過ごしました。マラウイの子どもたちは、学校に登校できることが幸せだと思っているので、楽しく熱心に勉強に取り組んでおり、そのような子どもたちと接したことがきっかけでした。マラウイは、教育環境が未整備であり地域によっては子ども100人に対して教師一人しかいないという学校もありました。また、大学進学率は、約1%であり、ほんの一握りの子どもたちしか大学に通うことができない環境でした。 マラウイなどの開発途上国の教育が改善するように、研究をしていきたいと思いました。
アフリカに渡航した経験がなかったので、マラウイがどのような国であるか想像がつきませんでした。インフラが整備されておらず、停電が続くと木炭で火を起こして料理をしていました。生活には困りましたが、よく周りの人々が助けてくれました。地域住民とのつながりが深く、物質的には豊かではなかったですが、心は豊かだったと思います。生徒とは、勉強の仕方や将来の夢についてよく話をしました。コミュニケーションには困らなかったですね。
アフリカに1年に1~2回、フィールド調査に行き、そこで得られたデータを基に開発途上国の教育開発計画や教育政策について研究をしています。学力を伸ばす方法や、中途退学率が高いのでその要因を追求し、より良い学校運営などを研究しています。
研究の対象国はアフリカやアジアの開発途上国が多いので、研究成果を海外の人々が読めるように英語で論文を書くようにしています。年に2~3本投稿し多くの人々に論文を読んでもらい、開発途上国の状況を少しでも改善できればと思っています。
子どもたちは生まれてくる親や国を選べません。どの国で生まれ育っても最低限の生活を保てるようになることが大切です。私は、子どもたち全員が最低限の質の良い教育を受けられることがその一歩であると思います。教育の質の向上はすぐに成果が出なくても、いつか必ず成果が出ると信じて研究を続けています。
2024年11月19日
【広島大学の若手研究者】生き物っぽいモノをつくる研究
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学大学院統合生命科学研究科助教(超越化学グループ)
松尾 宗征さん
分子システムの「自己」の創発を目指して
専門は化学です。物理学や生物学も使って研究をしています。生物は、化学反応で動いています。化学反応を使って生き物みたいに動くウェットな人工生命をつくっています。
幼少時から生き物が大好きで、ゾウをはじめとした多くの生き物を飼育していました。自然と生き物の死に直面することも多く、「生命とは何か」に興味津々でした。それを解明するために、中高生の時には生物を人工的につくってみたいと本気で考えていました。また、高校生の時に読んだ「生命システムをどう理解するか」という本にあった研究にひかれ、その研究室に念願かない卒研から飛び込み今に至ります。さまざまな先生や仲間たちとのご縁もあり、今楽しく研究できています。
化学的に考えると一年前の自分はもういません。骨すら入れ替わり、98%は物質としては残っていないです。しかし、一年前の自分は物質的には残っていなくても、確かに今ここにいるのでとても不思議です。物質的には全く違うモノになっているのに、摂食し排泄する物質の流れの中で、生命としては回帰的に「自己」を維持し続けていることが大事です。こうした性質をもつ分子システムをつくる研究をしています。
一つ目は生き物っぽいモノをコンピューターの中のプログラムとしてつくる。二つ目はロボットみたいな硬いものでつくる。三つ目は、柔らかいみずみずしい実態のあるものでつくる。私は、生き物が好きなので三つ目のウェットな人工生命をつくっています。進化できる分子の集合体を人類で初めてつくるのが夢です。
今までの私の研究は主に三つに分けられます。一つ目は、私が設計・合成した餌を自分で食べて回帰的に成長する液滴、二つ目は自分で成長・分裂し増殖できる分子の集合体、三つ目は有機物や無機物からなり自発的な振動状態を我々の心臓のように継続する自律アクチュエータ(エネルギーを動きに変える装置)をつくりました。
一つ目の成果が2021年に科学誌Natureの姉妹誌「NatureCommunications」、2022年には月刊誌「化学」に掲載されました。それにより科学誌Scienceの発刊元や英国王立化学会など世界中からインタビューを受け研究成果が波及しました。これまで、自分の好奇心で行ってきた研究が少しでも人類の科学史に貢献できたことを実感し、自分の好奇心を信じ研究を加速させていくモチベーションの一助になっています。
2024年10月15日
【広島大学の若手研究者】異文化理解の課題・進める方法について研究
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学大学院人間社会科学研究科 講師
デラコルダ 川島・ティンカさん
専門は宗教社会学
異文化と自分の文化を理解できる人を増やしたい
物事はいつも見かけ通りとは限らない
専門は宗教社会学で、日本とヨーロッパの宗教から社会の特徴を明らかにする研究をしています。仏教やキリスト教という違いはありますが、教義(宗教の教えの内容)から離れて一般の人たちが日常的な生活の中で宗教性を認識することに、共通する部分があることが分かりました。聖地巡礼や困った時の神頼みなどがその例です。
教育学部の異文化間教育推進室に所属しています。宗教社会学で学んだことを基礎として、異文化理解における課題や異文化理解を進める方法について研究しています。CEDAR(セダー)という研究グループのワークショップに参加するなど、彼らの方法論を参考に日本での効果的な方法を探っています。
CEDARというのはアメリカに拠点を置く国際的なグループ。とても興味深い異文化理解の方法を実践しています。互いの違いを認識し、それを変えるのではなく受け入れながら共存することを目指します。個人それぞれが文化的な背景を持っているので、それらの文化を大切にしています。各個人のアイデンティ形成には、所属する文化はとても重要です。彼らのワークショップでは約2週間、いろいろな人たちと共同生活し、異文化と接触しながら互いの理解を深めます。すごく緊張感のある生活ですが、異文化の理解とともに自分の文化についても深く考える機会になります。
授業などで異文化理解の前に、自分と自分の文化を認識するという活動を行っています。私の専門分野の宗教社会学を活用し、自分の宗教意識について他の人と比較するというものです。これによって日本にも多様な宗教意識があり、日本人と外国人という図式だけでは他の文化を理解することができないことに気付くことができます。ワークシートを作成し大学で実践したところ、学生にとても有効であることが分かりました。
現在は、CEDARの方法を日本でも応用できるように研究を進め、日本で使用できるようなワークブックの出版に取り組んでいます。これを基にワークショップを定期的に開き、異文化理解の誤解を減らし、より深く異文化と自分の文化を理解できる人が増えるようになってほしいと思います。特に、教育学部で授業することによって将来、学生が学校の先生になり、多様な文化的背景を持つ子どもたちを支援してほしいと考えています。
東広島市には多様な国から来た人たちが住んでいます。その子どもたちも増え続けているので、学校での教育には多くの課題があります。いろいろな文化的背景を持っている人や子どもたちを理解していくことで、楽しく住める街になると思います。
2024年9月16日
頑張る広島大生 陸上競技部長距離パート 出雲駅伝に12年ぶり出場
広島大学陸上競技部の長距離パートが10月14日に出雲市で行われる「出雲駅伝(出雲全日本大学選抜駅伝)」に12年ぶりに出場する。出雲駅伝は箱根駅伝、全日本大学駅伝と並ぶ大学三大駅伝の一つ。私学の強豪が集う中、選手たちは「全国に広島大をアピールしたい」と話している。
今年の出雲駅伝に出場するのは21チーム。今年の箱根駅伝上位校の9校のほか、全国の予選を勝ち抜いた大学が参加する。広島大は昨年11月の中四国大学駅伝で3位に入り、中四国学連代表として、出雲駅伝に12年ぶり4回目の出場を決めた。国立大は広島大のほか、岡山大、名古屋大、鹿屋体育大が出場する。
広島大・長距離パートの現在の部員数は学部生、院生を合わせ22人。「Challengers」をスローガンに掲げ、「格上の相手であってもひるむことなく、思い切りぶつかる」ことを部の支柱に据え練習に取り組んできた。
練習は週に5日。一日平均で20㌔の距離をこなす。部員が主体的に練習メニューを考える。選手間で改善点などをアドバイスし合いながら、練習に励む。アドバイスをする側も、気づきが生まれ、成長につながる、という。
現部員で高校時代に全国高校駅伝に出場したエリート選手はいない。ただ、考える姿勢を重視した練習が、選手の記録の伸びを促した。5000㍍の上位8人の平均ベストは14分58秒と、中四国の大学ではトップクラスを誇るほどになった。
本番まで1カ月。島根県の石見智翠館高出身の橋井佑空さん(情報科学部2年)は「普段、テレビで見る選手と一緒に走れることは、貴重な経験になる。思い出に残るレースにしたい」ときっぱり。兵庫県出身で大学院先進理工科学研究科1年の大森勇輝さんは「最大限の力を発揮できるようにする」と意気込む。
広島大陸上競技部は、短距離の山本匠真さん(工学部4年)が、ことしのパリ五輪の代表候補に選ばれた。長距離パートの主将を務める南凱士さん(教育学部3年)は「身近な先輩が注目され刺激になった。自分たちも負けずにアピールしたい」と話しながら、「国立大は、私学の強豪校と比べ、練習環境や部の活動費などでさまざまなハンディを背負っている。そんな中、国立大学でもやれる、というレースを見せたい」と言い切る。
【出雲駅伝】
平成元年から始まった。第1回大会は、「平成記念出雲くにびき大学招待クロスカントリーリレーフェスティバル」の名称で開催。第6回大会からは現在の「出雲全日本大学選抜駅伝競走」に名称変更。「出雲駅伝」の略称は、第19回大会に愛称化され、翌20回の記念大会から正式略称となった。今年が36回目。出雲大社前をスタート、出雲ドーム前をゴールに6区間45・1㌔のコースで競われる。
2024年8月19日
【広島大学の若手研究者】専門はスポーツ科学 人の運動制御を研究
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大大学院人間社会科学研究科准教授
進矢 正宏さんさん
予測誤差は、神経系にとって重要な情報
私は、バイオメカニクス(生物力学)・心理学・生理学などの分野をまたいだ学際的なスポーツ科学を目指しています。
高校生の時に空手をしていて、できなかった中段回し蹴りの技ができるようになった時に、何がどう変わってできるようになったのか、できる人とそうでない人は筋肉の数など物理的には変わらない体なのに、何が違うのかということに興味をもったことですね。
人の運動制御が専門です。いつどのように筋肉を動かせば思った通りの運動ができるのかを神経系が計算しています。しかし、具体的にどういう計算をしているのかは誰も知らないので、人の動きを計測することにより人の動きがどのように制御されているのかを研究しています。最近では、未就学児の歩行制御の研究を始めました。歩き始めの子どもがよく転ぶのは頭が重いなどの物理的な要因か、どういう制御が未完成なのかを明らかにするための研究です。
私たちは、特に何も意識せずに歩いていますが、神経系は常に次の着地について予測しています。例えば階段で、もう一段あるはずと思って登っていたが実際にはなかった時に「かくっ」となるのも、こういったシステムが神経系に備わっているからです。思った通りにできなかったという予測誤差は、神経系にとっては非常に重要な情報です。「思ってたんとちゃう!」というのは、M-1グランプリで優勝候補だったお笑いコンビが決勝前に敗れた時のコメントですが、私の研究のキーワードでもあります。
運動についてですが、練習でできたことが本番でできなかったのは何がどう変わったのかなど、研究して解明できると面白いです。人間の動作は複雑です。それだけに未知の世界を明らかにする楽しみがあります。いろいろな手法を組み合わせ、分析の仕方などを開発して研究し誰も知らないことを知ることは楽しいですね。
うまくいかない動きは、自分の脳や神経が一生懸命計算した結果です。人と比較してできていないように見えるかもしれませんが、人間の体の複雑さを考えると相当できています。筋力が落ちて思った通りに歩けないという経験をするからこそ、今ある体でどうやって動けばいいのかを一生懸命脳が計算します。思った通りできなかったという経験は、脳が計算方法を変えて新しい動きを作って行くという過程なので非常に大事です。失敗しつつも運動をやり続ける。やらなかったら脳はアップデートしません。できなかったことをポジティブに捉えて次に挑戦してほしいです。
2024年7月17日
【広島大学の若手研究者】防災学習で共生社会実現へのヒント考察
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学大学院人間社会科学研究科准教授
小口 悠紀子さん
専門は日本語教育学
日本人も外国人もコミュニケーションで心地よく生きる社会に
私たちが学生のときに習う国語は、日本語母語話者を想定して教えている教科です。日本語教育は、日本語を第二言語(外国語)として学ぶ人(主に外国人)に教えることを指します。教育学的な観点はもちろん、言語習得や心理、文化、外国人に関する法律などさまざまな専門知識が必要で、これらの総称を日本語教育学と言います。
日本語教育を専門的に学べる大学は、世界にはほとんどありません。その中で広島大は日本語教育学専攻を作ったパイオニアで、日本語教育の多様な分野の研究者が多くいることで有名な大学です。私が広島大に進学したのも、その理由からです。
日頃は、日本語の文法習得や、どうしたら効率的に日本語を教えられるかという教授法の研究をしていますが、2018年の西日本豪雨の経験をきっかけに、地域の日本人と外国人がともに災害リスクについてコミュニケーションを取る重要性に着眼し、ともに集い、情報を共有しながら考える防災学習の実践と研究を始めました。
防災学習にはLEGOブロックやピクトグラムカードを用いました。私たちは豪雨災害の危険があると知ったとき、家族や友人たちとひんぱんに情報を交換しながら災害への備えや意識を高めていきます。しかし、このまちにきたばかりの人や外国人は危険な場所や過去の災害などローカルな情報を入手しにくいのが現状です。外国人が参加しやすく、参加者間の対話を促しやすいように、とブロックなどを用いることにしました。
外国人と日本人が接する場の一つに日本語教室があります。日本語教室は、日本人が「教える」、外国人が「教えられる」といった固定された役割と関係が生まれてしまいます。一方、今回、実践した防災学習では、LEGOブロックが上手い子どもが注目を浴びたり、災害経験のある外国人の話に、地域の日本人が耳を傾けたり、とコミュニティ内での役割が次々と変化していきました。その柔軟なコミュニケーションのあり方には、外国人の社会参加や共生社会実現へのヒントが詰まっていることに気付かされました。研究成果は海外でも公表、2021年度日本語教育学会奨励賞を受賞しました。防災学習のワークショップは、東広島市では、今後も年に2回行っていく予定です。参加していただけるとうれしいです。
日本語教育という専門性から、外国人市民の多い東広島市のまちづくりに貢献できるような研究をしていきたいと思っています。日本人にとっても外国人にとっても、コミュニティで心地良く生きることは大切です。コミュニケーションの力で地域の人と多文化共生の意識を醸成していくことができれば、と思っています。
2024年5月29日
【広島大学の若手研究者】がんに効く機能性材料を作る研究
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大大学院 統合生命科学研究科 基礎生物学プログラム助教
高橋 治子さん
がんを知ることは生物を知ること。未来につなげたい
一番分かりやすくて身近なのは、コンタクトレンズや心臓の弁ですね。体の中に入れて体の機能を補ったり、治療効果を出したりします。体によくなじみ、体の中で機能を発揮することができるような材料を作るのがこの学問の分野です。
祖父が薬剤師で薬局を経営していたので、薬の知識があると人の体を良い方向に変えることができるということを体感して医療に興味を持ちました。大学では腎臓や心臓、肺の機能を一時的に代替する透析装置や人工心肺装置の操作・管理などを行う臨床工学技士の勉強をしていましたが、このまま医療現場に入るよりは新しい材料などを研究して良い物が作れたらと思い研究者になりました。
私の研究の柱は二つあって、一つ目は培養皿の上でがんの状態を再現して三次元的に組織をつくり、調べることができるようなモデルを作っています。二つ目は、人によってがん細胞のでき方や特性などが全く違うので、それぞれのがんに対して、殺したり、悪化を抑えて共生できるようにする機能性材料を作ろうと日々研究しています。
私は生物に興味があって、がんを知ることは生物を知ることだと思って今の研究をしています。私が仲間たちと考えて見つけたことや作り出した材料が、10年後20年後に少しでも、良くなる方向へつながったらすてきじゃないですか。
未知のことを新たに発見したり、自分が考えたことから何かを作り出すことができるとワクワクして面白いですね。研究は、大きな目標に対して仮説と検証の繰り返しです。料理を極めたりゲームをやり込んだりすることと近い感覚だと思います。
好きなことは、日々の研究ですね。研究環境が整っている広島大学で、ケニアやフィリピンなど世界各国の留学生と文化交流をしながら一緒に研究ができて毎日が楽しいです。研究が進まなくてしんどい時もありますが、教授や学生、学外の共同研究者など研究仲間が頑張って進んでいる姿を見て、私も頑張らなきゃあと思い自然と元気になります。
私たち自身の細胞からがん細胞が生まれてしまうので、がんは誰にでも起こり得る病気です。がんはそういう病気だということをもっと知ってもらいたいですね。今は、一人一人のがんのタイプに合わせた個別化医療が盛んになってきて、これから検査や治療法もどんどん進化していくと思われるので、それをうまく利用してがんと付き合っていくことが必要です。何より早期発見が大切なので検診を受けましょう。
2024年4月23日
【広島大学の若手研究者】スピントロニクスの技術を研究開発
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大大学院先進理工系科学研究科准教授
黒田 健太さん
電子スピン顕微鏡の開発に世界で初めて成功
高校の物理の授業で問題に答えたごほうびとして、先生からおいしいアイスクリームをもらってうれしかったことで物理に興味を持つようになり、大学で物理を選択しました(笑)。
物理学の分野の一つで、物質の性質の仕組みを追究する学問です。例えばスマートフォンやパソコンには、シリコンなどの半導体(電気を流す・流さないを瞬時に切り替えられる物質)が必ず使われています。物性物理学では、なぜシリコンは半導体になるのかというところから原理を追究して、どうすれば半導体の性能を向上できるのかまで問いを展開させます。これを追究するために、量子力学(電子などが粒子と波の二面性を持っていることから記述される物理学)など高度な考え方を使います。
仕組みが分かった瞬間も楽しいですが、分かるまでの過程に醍醐味があります。どのように生きていくかという人生と同じで、研究は人の物語で仕上がります。
スピントロニクスという新たな技術に関する研究を行っています。従来のエレクトロニクスは電子の動き(電流)を使いますが、スピントロニクスでは電子のスピン(電子の自転)を使います。これをうまく使いこなせば超低消費電力なデバイスができると期待されているため、世界中で競って研究開発が行われています。
広島大学にある放射光科学研究所 (通称HiSOR) には、スピンを高感度で検出できる非常に貴重な技術があります。僕の最近の研究成果としては、このスピン検出技術と顕微鏡の技術を組み合わせて、数マイクロ㍍まで微小な空間で電子とスピンの動きを観察する電子スピン顕微鏡の開発に世界で初めて成功しました。理科の実験で微生物の動きを観察する光学顕微鏡がありますが、大ざっぱに言うと開発した電子スピン顕微鏡で半導体をのぞき込むと半導体内で電子とスピンがどのように動くか見て分かります。
開発した電子スピン顕微鏡を利用して超高精度に観察することで、電子とスピンの量子力学的世界を解き明かし、それをスピントロニクスの仕組みとして発展させることで長く続く豊かな生活の実現につながればと思います。
電子とスピンを可能な限り素早く制御することに挑戦します。これは、超短パルスレーザーという特殊なレーザーを使った超高速科学という研究分野で、アト秒(10のマイナス18乗秒)に迫る極短時間に起こる現象を追究します。スピン検出技術をさらに進化させて、電子とスピンの超高速な世界を見ることでその不思議な世界を表現したいです。
2024年3月28日
【広島大学の若手研究者】スマホ接続型眼底カメラ開発
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学病院眼科医/助教
水野 優さん
眼底疾患に対応、眼科医の遠隔診療に期待
県内のへき地の病院や、島しょ部の患者さんが多い県立広島病院で患者さんを診察していると、眼底疾患である糖尿病網膜症や緑内障にり患し、末期の状態まで進行している患者さんが多いことに気が付きました。早期に受診をしなかった理由を尋ねると、家の近くに眼科医がいなくて、眼科の受診がおっくうになっていたと答える患者さんが大半でした。
30年前には、糖尿病網膜症も緑内障も早期に病気を診断できても、進行を抑えることができず、失明を待つしかなかったのが現実です。しかし、近年は治療法が確立され、早期に診断・治療を始めれば失明を防げるようになってきました。眼科の受診が困難な患者さんを何とかしてあげたい、と思ったのが、遠隔診断に使うスマートフォン接続型の眼底カメラ開発のきっかけになりました。
コロナ禍で医療分野でも遠隔診療が進むようになり、そのタイミングで、研究開発に必要なスマホなどのデバイスや人工知能(AI)などが専門の大学内の先生たちとチームを組めたことが、眼底カメラの開発を加速させてくれました。
眼科医は、特殊なレンズと光を発生する光源を組み合わせて眼底を診ますが、それには熟練の技術が必要です。診断する眼科医の目を、そのままスマホとレンズで再現させたのが眼底カメラです。AIの技術を使って、眼底カメラで撮った動画から、正確な眼底の箇所を静止画として抜き出すことができました。眼底カメラの開発は、今年3月、中国地方の女性を対象にしたビジネスプランコンテストで大賞を受賞、これからの研究の励みになりました。
開発した眼底カメラを医療機器として承認してもらったり、保険診療で扱ってもらえたりできるよう準備を進めています。眼科以外の医療従事者が撮影した画像を、眼科医が遠隔で診断できる仕組みづくりを目指し、眼科受診困難者の解消に努めます。
大切なのは、テクノロジーだけで終わらせないこと。静止画像をもとにAIが診断できるようにしますが、データには必ず専門の眼科医をひも付けし、早期発見、早期治療に結び付けていきます。チームのメンバーを中心にスタートアップの企業を立ち上げ、今年中に社会実装ができれば、と願っています。
「人事を尽くして天命を待つ」ですね。命を預かる医学の世界では、人の最期の最期は神の領域です。ただ、そこに至るまでは、決してあきらめない、医者としての努力が求められます。これからも「みんなが100歳まで明るい世界を」を目標に掲げながら、一人でも視覚障がい者が減ることを願って、治療・研究に当たりたいと思っています。
2024年3月1日
【広島大学の若手研究者】地震防災の研究 より精度の高いハザードマップを作成したい
プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
大学院先進理工系科学研究科 建築学プログラム准教授
三浦 弘之さん
AI活用、能登半島地震の実態把握
高校3年の時、阪神・淡路大震災が発生しました。当時、祖父母が神戸市内に住んでいたので、その被害を目の当たりにし、地震のエネルギーの大きさに驚きました。この地震をきっかけに、地震災害の軽減に役立つ勉強をしたいと強く思いました。
大地震がいつ発生しても、被害を最小限に抑えられる都市や社会をつくることを目指して研究しています。地震が発生した時の地面の揺れの大きさや建物の被害の大きさ、数などを詳しく予測して地震被害を軽減する研究と地震が発生した後、被害をいち早く把握するために、人工衛星や航空写真のリモートセンシング技術と地理情報システム(GIS)を利用し、どこでどの程度の被害が発生したのかを自動的に判定する技術の開発を行っています。
阪神・淡路大震災と熊本地震の被災地を捉えた約1万枚の航空写真データをAI(人工知能)に学習させ、画像に写った建物が倒壊しているかを誤差なく自動判別できるプログラムを開発しました。能登半島地震では、AIの技術を活用し能登半島を撮影した人工衛星の画像を分析して、早期に実態を把握することができました。さらに精度を上げて、今後の災害に生かしていきたいです。
いつ発生するか分からない地震に、限られた情報でチャレンジし精度を上げて予測するのはとても難しいですね。地震研究で得られた成果が、日本に限らず、世界のさまざまな地域で活用され災害軽減に貢献できることにやりがいを感じます。
自治体が公開している地震のハザードマップは、地盤の情報が簡略化されているので、AI技術を活用し場所ごとに地盤の詳しい情報を反映した精度の高い地震の揺れを予測して、より詳細なハザードマップを作成したいと思います。
現地に行き調査しましたが、耐震性が低い古い木造の建物が多く倒壊していました。道が崩落し孤立した集落が出ていたので、被害の状況の把握が難しいということを改めて感じました。県内でも今回の規模の地震が発生すれば、同じような被害が起こり得るので大地震がいつ起きても大丈夫なように備えを進めてほしいです。
自宅を安全な場所にし、自分の身は自分で守ることが防災の基本です。地震のハザードマップを見て自宅がどういう場所に建っているのか確認し、1981年より古い家屋は地震に弱いので耐震診断を受けて、危険であれば耐震補強などを検討することが重要です。日本全国どこに行っても安全な場所はないと思って、普段から地震などの災害対策を考えてほしいと思います。