広島大学の若手研究者に着目し、その研究内容についてインタビューしました!🎤
今回お話を聞いたのは
大学院生物圏科学研究科助教
中村隼明(なかむら よしあき)さんです!
始原生殖細胞に着目
ニワトリの遺伝資源保存法を確立🐓
研究テーマを一言で言えば「動物を細胞レベルで保存する研究」です。もっとかみ砕いて表現すると「現代版のノアの箱舟計画」といったところでしょうか。
ギリシャ神話の「ノアの箱舟計画」では、箱舟の中でさまざまな動物種の雄と雌のペアを冬眠させます。大洪水の後、眠りから覚めた動物は、交配して子孫を増やします。
僕の目指す「箱舟計画」では、液体窒素タンクの中で、次世代に遺伝情報を伝達することができる唯一の細胞である生殖細胞を冬眠させます。
ただ、生きた動物がいないので、交配によって子孫を増やすことができません。このため、凍結した生殖細胞を溶かして、その細胞から個体を復元する必要があります。
僕の研究は生殖細胞から、次世代の個体を復元する技術を開発し効率化することです。
小学生のとき、大干ばつの影響で、僕の住んでいた地域からベッコウトンボが姿を消しました。そういう生き物を、人間の手を介して保護していきたい、と思ったのが、動物の種の保存に興味を抱くきっかけになりました。
哺乳類の発生工学分野では、18世紀に人為的に精液を生殖器に注入する人工授精の技術が生み出され、戦後は精液の凍結保存技術が実現しました。
このことが、家畜生産の現場に人工授精の普及をもたらし、今では乳牛の99%、肉牛の95%が人工授精によって生産されています。
しかし、鳥類は哺乳類ほど種を保存する技術が十分ではありません。鳥類の卵は大き過ぎて、凍結することができないことがネックになっているからです。
研究で着目したのは、ニワトリとウズラをモデルにした始原生殖細胞です。
始原生殖細胞とは、胚(鳥類では卵の中の時期)が発生する過程で出現する精子や卵の起源細胞のことです。
その始原生殖細胞は、将来の生殖層(オスであれば精巣、メスであれば卵巣)に移動する過程で、一過的に血液中を循環することが知られていました。
この性質を利用して、血液中や生殖巣から取り出した始原生殖細胞(ドナー)を、他のニワトリの胚(宿主)の血液中に移植する技術が開発されました。
ドナー始原生殖細胞は、宿主胚が持つ能力によって、生殖巣へ移動して生着し、機能的な精子や卵になります。ただ、これまでの技術の限界として、始原生殖細胞の操作の根幹となる採取や凍結、移植の効率が極めて低いことが課題でした。
そこで、これらの課題を一つずつ解決することで、始原生殖細胞を凍結して、ニワトリやウズラを半永久的に保存する技術を確立しました。
特に、宿主胚自身が持つ始原生殖細胞を除去して、ドナー始原生殖細胞由来の精子や卵だけを作らせる技術は、凍結した始原生殖細胞からニワトリを効率的に復元することができるため、世界から注目されています。
遺伝資源は、一度損失した場合、再び取り戻すことができません。このため、現存する動物から積極的に遺伝資源を収集・凍結保存することは急務です。
日本鶏などの希少な品種は、年間産卵数が少ないため、得られる受精卵の数が制限されますから、まさに保存は必須です。
家畜化された鳥の遺伝資源の保存は、鳥インフルエンザの脅威に対抗するためにも、大切な意味合いを持ちます。
将来的には、繁殖能力の高いニワトリに、絶滅危惧種のライチョウを生ませてみたい、と思っています。どちらもキジの仲間。できないことはないと思っています。
※プレスネット2018年4月5日号より掲載
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投稿者名: プレスネット