〈テーマ〉 自然に学ぶ接着技術
広島大学OBの教職員らでつくる「広大マスターズ」の会員を講師に迎えた週1回のラジオ講座を放送します。テーマは生活、地域社会などで、全4回。3月8日~29日の内容を少しだけ紹介します。
今回の講師 髙田忠彦さん
たかた・ただひこ 繊維加工、繊維とマトリックス(樹脂やゴム)の接着技術が専門の工学博士、技術士(繊維部門)。繊維会社の研究所、海外子会社を経て、元広島大学工学研究科、産学連携センター教授。東広島市西条町在住。
紙と紙との同種材料、紙とコンクリートとの異種材料を貼り合わせる場合には、私たちは接着剤を使う。一旦接着すると、容易に剥がすことはできない。しかし、自然界には、接着剤を使わないで、容易に可逆的に接着、剥離を繰り返すヤモリのような生物もいる。今回は生物機能を模倣する接着技術などについて、お話をしたい。
物と物とを接着させるには?
物と物とを接着するには、同種材料、異種材料を問わず日常生活では接着剤を使う。また、航空機材料や自動車タイヤ材料など高性能が要求される材料も、接着剤が使われている。
これらの材料は、接着後、長期の使用に耐えることが要求される。一方では、一定期間使用後、リサイクルや廃棄を意識し、容 易に剥がれることも求められている。
しかし、自然界には、接着剤を使わないで、いとも簡単に接着・剥離を繰り返す生物がいる。最も有名なのは、天井、壁、窓ガラスを接着と剥離を繰り返しながら自由自在に動き回るヤモリである。自然界の接着技術は、巧妙に仕組まれ、環境にも優しいのである。
自然界の接着の仕組み
2000年頃、米国大学の研究者がヤモリの接着・剥離の仕組みを明らかにした。
物と物は互いが分子や原子レベルで近づけば、引力が働き、接着することが知られている(この力をファンデルワールス力と言う)。
分子、原子レベルで物同士を近づけることは極めて難しいが、ヤモリの肢あしの裏は細かな毛が10万から100万本の密度で密生し、さらに先端が100~10000本程度の細かな毛に分かれている ことが電子顕微鏡で観察されている。この先端の細かな1本1本の毛先が限りなく対象物に近づくことによりファンデルワールス力が発現し、これらの力が合わさって接着する。逆に、毛先の角度を少し変えれば簡単に剥離する。
このように接着・剥離が極めて短時間に行われることで、動き回ることができるのである。自然界での接着・剥離の仕組みは、極めて巧妙であることが分かる。
理想的な接着とは?
これまで、非常に苦労しながら強くて長持ちする接着技術が開発されてきたが、一定期間使用後、接着剤が分解し、簡単に剥離し、材料をリサイクルさせることができれば、社会にとって好都合である。
すでに、多くの研究者が、ヤモリに見られるような生物をまねた接着・剥離を可逆的に繰り返す、環境に優しい接着技術の開発を試みている。製品化された技術もある。今後ますます、生物の機能を模倣する技術「バイオミメティックス」による接着技術の開発が進むことが予想される。
FM東広島 放送スケジュール
FM東広島(89.7MHz)で髙田先生の講座を放送します。それぞれ、日曜日17時~、再放送をします。
第1回 3月8日(金)12時~
物と物との接着
●日常生活から航空機材料まで使われる接着
●接着の狙いは何か?
●接着剤の発展と課題
第2回 3月15日(金)12時~
自然界の接着
●生物の接着は環境に優しい
●接着剤は不要
●ヤモリや昆虫は接着と剥離を容易に繰り返す
第3回 3月22日(金)12時~
ヤモリの接着の仕組み
●ヤモリの肢裏に秘密
●ファンデルワールス力とは?
●接着・剥離はどのように行われるか?
第4回 3月29日(金)12時~
将来の接着技術
●地球環境・リサイクルを意識した接着
●バイオミメティックスとは?
●バイオミメティックスによる接着
●理想的な接着