プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大大学院人間社会科学研究科准教授
進矢 正宏さんさん
予測誤差は、神経系にとって重要な情報
Contents
私は、バイオメカニクス(生物力学)・心理学・生理学などの分野をまたいだ学際的なスポーツ科学を目指しています。
高校生の時に空手をしていて、できなかった中段回し蹴りの技ができるようになった時に、何がどう変わってできるようになったのか、できる人とそうでない人は筋肉の数など物理的には変わらない体なのに、何が違うのかということに興味をもったことですね。
人の運動制御が専門です。いつどのように筋肉を動かせば思った通りの運動ができるのかを神経系が計算しています。しかし、具体的にどういう計算をしているのかは誰も知らないので、人の動きを計測することにより人の動きがどのように制御されているのかを研究しています。最近では、未就学児の歩行制御の研究を始めました。歩き始めの子どもがよく転ぶのは頭が重いなどの物理的な要因か、どういう制御が未完成なのかを明らかにするための研究です。
私たちは、特に何も意識せずに歩いていますが、神経系は常に次の着地について予測しています。例えば階段で、もう一段あるはずと思って登っていたが実際にはなかった時に「かくっ」となるのも、こういったシステムが神経系に備わっているからです。思った通りにできなかったという予測誤差は、神経系にとっては非常に重要な情報です。「思ってたんとちゃう!」というのは、M-1グランプリで優勝候補だったお笑いコンビが決勝前に敗れた時のコメントですが、私の研究のキーワードでもあります。
運動についてですが、練習でできたことが本番でできなかったのは何がどう変わったのかなど、研究して解明できると面白いです。人間の動作は複雑です。それだけに未知の世界を明らかにする楽しみがあります。いろいろな手法を組み合わせ、分析の仕方などを開発して研究し誰も知らないことを知ることは楽しいですね。
うまくいかない動きは、自分の脳や神経が一生懸命計算した結果です。人と比較してできていないように見えるかもしれませんが、人間の体の複雑さを考えると相当できています。筋力が落ちて思った通りに歩けないという経験をするからこそ、今ある体でどうやって動けばいいのかを一生懸命脳が計算します。思った通りできなかったという経験は、脳が計算方法を変えて新しい動きを作って行くという過程なので非常に大事です。失敗しつつも運動をやり続ける。やらなかったら脳はアップデートしません。できなかったことをポジティブに捉えて次に挑戦してほしいです。