プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学病院眼科医/助教
水野 優さん
眼底疾患に対応、眼科医の遠隔診療に期待
Contents
県内のへき地の病院や、島しょ部の患者さんが多い県立広島病院で患者さんを診察していると、眼底疾患である糖尿病網膜症や緑内障にり患し、末期の状態まで進行している患者さんが多いことに気が付きました。早期に受診をしなかった理由を尋ねると、家の近くに眼科医がいなくて、眼科の受診がおっくうになっていたと答える患者さんが大半でした。
30年前には、糖尿病網膜症も緑内障も早期に病気を診断できても、進行を抑えることができず、失明を待つしかなかったのが現実です。しかし、近年は治療法が確立され、早期に診断・治療を始めれば失明を防げるようになってきました。眼科の受診が困難な患者さんを何とかしてあげたい、と思ったのが、遠隔診断に使うスマートフォン接続型の眼底カメラ開発のきっかけになりました。
コロナ禍で医療分野でも遠隔診療が進むようになり、そのタイミングで、研究開発に必要なスマホなどのデバイスや人工知能(AI)などが専門の大学内の先生たちとチームを組めたことが、眼底カメラの開発を加速させてくれました。
眼科医は、特殊なレンズと光を発生する光源を組み合わせて眼底を診ますが、それには熟練の技術が必要です。診断する眼科医の目を、そのままスマホとレンズで再現させたのが眼底カメラです。AIの技術を使って、眼底カメラで撮った動画から、正確な眼底の箇所を静止画として抜き出すことができました。眼底カメラの開発は、今年3月、中国地方の女性を対象にしたビジネスプランコンテストで大賞を受賞、これからの研究の励みになりました。
開発した眼底カメラを医療機器として承認してもらったり、保険診療で扱ってもらえたりできるよう準備を進めています。眼科以外の医療従事者が撮影した画像を、眼科医が遠隔で診断できる仕組みづくりを目指し、眼科受診困難者の解消に努めます。
大切なのは、テクノロジーだけで終わらせないこと。静止画像をもとにAIが診断できるようにしますが、データには必ず専門の眼科医をひも付けし、早期発見、早期治療に結び付けていきます。チームのメンバーを中心にスタートアップの企業を立ち上げ、今年中に社会実装ができれば、と願っています。
「人事を尽くして天命を待つ」ですね。命を預かる医学の世界では、人の最期の最期は神の領域です。ただ、そこに至るまでは、決してあきらめない、医者としての努力が求められます。これからも「みんなが100歳まで明るい世界を」を目標に掲げながら、一人でも視覚障がい者が減ることを願って、治療・研究に当たりたいと思っています。