プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
大学院人間社会科研究科 人間総合科学プログラム 准教授
澤井 努さん
先端科学技術の倫理的課題を研究
目指す社会、大事にしたい価値を考える
価値に関わる問題を議論し未来をつくる
Contents
倫理学が専門で、最近は科学・医学・工学の先端分野で生じる「ELSI/RRI」を研究しています。ELSIとは倫理的・法的・社会的課題(Ethical,Legal,andSocialIssuesの略)のこと。責任ある研究とイノベーションと訳されるRRI(ResponsibleResearchandInnovationの略)は課題が生じてから研究するのではなく、研究・技術の開発段階からどういう社会を目指したいか、社会でどういう価値を大事にしたいかを先行して議論する研究・実践です。
米を品種改良によって寒さに強くし収穫量を確保する、また食糧難を解決するために肉量が1.5倍の鯛を開発するのはどうでしょうか。新しい研究や技術は私たちの生活を快適にしてくれる一方で、食の遺伝子に介入することへの根強い抵抗感もあります。研究・技術が社会にもたらしうる課題を洗い出したり、複数の未来像を描き、そうした未来像から現在の研究・技術のあり方を問い直したりする研究をしています。
科学者などは自然・生命現象を解明するという意味で事実を扱いますが、倫理学者は個人・社会がどうあるべきかという価値を扱います。私は応用倫理学者として、事実と価値の接点で研究しています。
父親はインド哲学が専門の宗教学者で、兄はイスラーム哲学が専門の宗教学者。おのずと宗教学や哲学、倫理学に興味を持ちました。修士課程では近世の日本思想を研究していましたが、オックスフォード大学に留学した際に応用倫理学分野の第一人者であるジュリアン・サヴァレスキュ教授に師事しました。
サヴァレスキュ教授との初回ミーティングで山中伸弥教授のノーベル賞受賞の報道が話題になり、「今は賞賛ムードのiPS細胞だけど、これからどんな問題が提起されるかはまだ考えられていない。面白いテーマでは?」と提案されました。研究の先にどんな問題が生じるのか、研究をどこまで進めるのか、そしてそもそも自分はそうした問題にどう答えを出したいのか。今では研究者としてそうした問題に取り組んでいます。
こうした議論はどうしても研究者が中心になります。生活に強く関連しているにもかかわらず、生活者が議論に参加する機会はほとんどありません。私は研究や技術の開発段階から社会を巻き込んでいきたいと思っています。国民全員で議論するのは不可能ですが、さまざまな層の人が集まり私たちの社会の未来を考える機会や議論する場をつくりたい。その一環として今年9月に、高校生や大学生・大学院生を対象にイベントを実施しました。
研究・技術開発の先に、私たちや将来世代が利益・不利益を受け取りますよね。重要な問題を社会で考えて、よりよい答えを見つける。そうした一度出した答えも時代に合わせて更新しながら、未来を全員でつくっていきたいと考えています。