プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
大学院統合生命科学研究科 助教
河合 賢太郎さん
専門は魚の繁殖生態
漁業も生態系も守りたい
Contents
大学3年時から主に広島湾のクロダイの産卵生態について研究を続けています。釣り人からは、〈ちぬ〉の名で親しまれ、日本人には身近な魚ですが、産卵生態はほとんどわかっていなかったため、クロダイについて調べてきました。
私は主に瀬戸内海の魚の産卵を調べていますが、その方法は四つあります。一つ目は魚を釣って生殖腺組織や耳石を観察する方法です。生殖腺の発達状態や耳石を調べることで、魚の産卵年齢などを特定することができます。二つ目は、海水魚の多くが大量の卵を海中にばらまくように産卵する性質を利用しています。ネットを海中に落として卵をすくい、その分布などから産卵期や産卵場を特定していきます。三つ目は魚に超小型の発信機を取り付けて追跡し、魚の行動を調べるバイオテレメトリという技術です。産卵魚の行動を秒単位で明らかにすることができます。
四つ目は海水に含まれる生物由来のDNAを解析する環境DNA調査です。この調査は海水をくむだけですむため、貴重な産卵魚を殺す必要がなく、資源保護や調査コストの削減の面からも優れています。
一言でいうと、クロダイが人間のつくりだした生活・環境に合わせているということです。産卵期は、30年前と比べると、水温上昇の影響で2週間ほど早くなっていると考察できました。産卵場所は、かき養殖場のいかだ近くで、日没前後に盛んに産卵していることがわかってきました。クロダイは産卵期のあいだ、1カ月間ほぼ毎晩産卵します。産卵に必要なエネルギーの補給(摂餌)を考えた時、養殖場には餌となる付着生物が多く、餌を探す手間も省けます。大型のクロダイにとっては、養殖場は高級マンションのように居心地の良い場所になっているのでしょう。
瀬戸内海を代表する高級魚として知られるキジハタの産卵生態研究を進めています。キジハタは世界的には絶滅危惧種ですが、瀬戸内海では漁獲が増えている魚です。瀬戸内海のキジハタの生態を調べることが、世界のキジハタを増やすモデルになればと思っています。また、昨年11月から今年3月まで南極観測隊員の一員として参加し、暗く冷たい南極の海に住む魚の謎に包まれた産卵についても研究しています。
身近な魚の産卵研究を通じて、漁業者の生活と魚の生活(生態系)のどちらも守るためには、どのようにバランスをとればいいか考えていきたいです。産卵期の魚は脂が乗らず高値が付かないため、漁獲を控えて資源を増やす、旬の時期には脂がのった魚を適正量獲り、みなさんにおいしい魚を食べてもらう、というのが一つの理想形です。おいしい魚を食べ、魚に興味を持つ人が増えてくれることが、漁業者の生活と生態系を持続的に守るための第一歩と考えています。