プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
統合生命科学研究科 生物資源科学プログラム 准教授
若林 香織さん
ウチワエビの生態研究と養殖技術の開発
クラゲにへばりついて成長する仕組みにワクワク
エビを養殖し食卓へ、新たな水産資源や課題解決に
Contents
ウチワエビというエビを人工的に生産する技術の開発をしています。
ウチワエビは、うちわの形をしたエビで、高級魚のイセエビと並ぶおいしさで知られています。中国地方では山口県や島根県の松江等で水揚げがあり、100%が天然資源。これを人工的に育てることができれば、漁獲量が減っている天然資源を保護する一歩になり、食卓ではエビを気軽に楽しめるようになります。また、ウチワエビは昆虫でいう幼虫の時期「幼生期」にクラゲを食べて成長するため、瀬戸内海で大量に発生し漁業者を苦しめているクラゲの利用価値の発見にもつながります。さらに、このエビは瀬戸内海の新たな水産資源になる可能性も秘めています。
ウチワエビの養殖技術の研究は、以前所属していた東京海洋大学の研究室に水中写真家から「クラゲにのっている生き物がいた」という情報が寄せられたことから始まりました。生き物はウチワエビの幼生で、クラゲを餌として食べることは発表されていました。「研究室でもクラゲを餌にウチワエビを育てられるのでは」という気づきがあり、養殖技術を研究するプロジェクトが立ち上がりました。 このプロジェクトに参入し、東京海洋大学で技術開発を試み、さらにイセエビ研究の第一人者であるオーストラリアのブルース・フィリップス教授の下でも研究。ウチワエビモドキという別の種でも、同じ方法で稚エビを得ることができました。
この留学を後押ししてくれたのが、現在在籍する広島大学の研究室の前教授。「やりたい分野で世界一の人のところに行きなさい」という助言をいただきました。ご縁ですね。
広島大学では、ウチワエビの養殖技術の社会実装を目指し、幼生が健全に成長する適正の飼育環境や餌を明らかにし、誰でもどこでも養殖できる方法を確立する研究をしています。また、養殖技術を一緒に発展させるパートナーを探しています。例えば、太陽光で動く水の循環装置を使えば、海から遠く離れた砂漠でも養殖できます。世界の食糧不足にも貢献できる可能性もあります。
虫は苦手、魚もそれほど好きではない私が、生物学の研究を続ける理由は主に二つあります。一つはウチワエビが生き物としてユニークであること。クラゲの体はほとんどが水で栄養分は5%。そんなクラゲをあえて利用して成長する戦略に魅力を感じます。もう一つは、生きる仕組みの面白さ。1つの細胞が分裂して形をつくる点は生き物でほぼ同じですが、その過程での遺伝子の働きで全く違う形になります。さらに他の生物との関係やすむ場所に応じた独自の進化が見られます。例えばウチワエビの幼生の平らな形状はクラゲにへばりつきやすいから、体を水平にすると水の抵抗を受けて沈みにくいから、とか。進化の意味を考えているとワクワクが止まりません。