プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
広島大学ゲノム編集イノベーションセンター助教
下出 紗弓 さん
研究テーマは内在性レトロウイルス
新型コロナウイルスのように、ウイルスには悪者のイメージがつきまといます。
しかし、地球上には多くのウイルスが存在し、生物の進化にも貢献するものもあります。
そのことを知り、ウイルスに対する世界観が変わったことが進化にかかわるウイルス研究のきっかけでした。
ウイルスが増殖するためには宿主細胞に侵入し、宿主細胞のシステムを利用しなければなりません。
なかでもレトロウイルスは自身の遺伝情報を宿主細胞のゲノム(設計図)に忍ばせることができる特殊なウイルス。
ごくまれにですが、レトロウイルスが宿主の生殖細胞に入り込み、いつのまにか宿主の設計図の一部として子孫へと伝わっていくことがあります。
宿主の設計図の内部に存在することから「内在性レトロウイルス」と呼ばれ、一般的に活性化しない無害なウイルスです。
イエネコは約1万年前に中東で家畜化されたと言われています。
しかし、その後どのように世界各地を移動し、各品種が作られたのか詳細は分かっていません。
内在性レトロウイルスは、いつのまにか我々の中に入り込み子孫へと伝わるという特徴を持っています。
そこで、イエネコが家畜化され、世界各地に拡がるなかで、どの段階でどんなウイルスが入り込んだのかを調べることで、イエネコの移動歴を明らかにすることにしました。
さまざまな品種のネコのゲノムDNAを調べた結果、すべてのイエネコがRDRSC2aというウイルスを保有しており、すべてのイエネコの祖先は同じということが分かりました。
さらに調べると、欧米のネコの約半数は、RDRSC2aに加えて別のレトロウイルスを保有していましたが、アジアでは約4%のみでした。
こうしたことから中東で家畜化されたイエネコのうち、欧米へと向かったもののみにRDRSC2aとは別のレトロウイルスが新たに入り込んでいることが分かりました。
ゲノムを調べることで何百万年も前の進化の歴史が分かります。
身近なネコが進化の歴史の痕跡と共に生きていると思うと、ロマンを感じますね。
研究の世界では、思いがけず世界中の誰も知らない事実を発見することがあります。その瞬間は何にも代えることができません。
心掛けているのは、常に楽しさを忘れず広い視野でものごとをみることです。
すべてのイエネコが保有するRDRSC2aですが、トラなどの大きなネコ科動物は保有していないことが分かりました。
内在性レトロウイルスのなかには、宿主の姿を変化させ、進化に貢献してきたものもあります。
今回発見したRDRSC2aが、イエネコ特有の猫なで声やおとなしい性格など、家畜化されるうえで利点となった特徴にかかわっているのか、今研究しているところです。
※プレスネット2020年11月26日号より掲載
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投稿者名: プレスネット