プレスネットでは、広島大学の若手研究者に着目しその研究内容についてインタビューしています!🎤
今回お話を聞いたのは
大学院工学研究科 助教
橋本 涼太 さん
専門は地盤工学。貢献できる領域を広げたい
カンボジアにある世界遺産のアンコール遺跡群は、複雑な構造物の石積み遺跡ですが、それを支える地盤が変形し、倒壊の危険にさらされています。
地盤工学の面から、倒壊を防ぐには、どう対処すればいいのか。8年前から研究を続けています。毎年1回は必ず現地を訪れるようにしています。
研究調査対象のアンコール遺跡(パイヨン寺院)
研究当初は、石積み遺跡を守るには、高度な力学理論に基づいたシミュレーション手法を開発し、劣化予測から適切な修復方法の提案まで全て賄えるようにすることが重要だと考えていました。
しかし、その手法を用いて分析していると、破壊メカニズムは手計算でも評価可能なシンプルな理論で説明できることが明らかになりました。
その方が建築史や考古学など遺跡修復に携わる他分野の研究者にも理解されやすく、修復に向けた具体的な議論につながりやすいことが分かってきました。
精緻な手法に基づきながらも現象をつぶさに観察し、結論はシンプルに導く。このアプローチは実学である工学の研究者として重要な視点であると位置づけています。
センターは昨年の西日本豪雨を受け、相乗型豪雨災害に全学を挙げて研究する拠点として設立されました。地盤工学の面から考察すると、それぞれの山で水の染み込み方や地盤の強度は異なります。
ただ、気象庁の雨量情報には、個別の山ごとの情報は盛り込まれていません。当然、住民にしてみれば、自分の裏の山の情報までは分からないのが実情です。個別の情報をいかに発信できるか。具体策を提言できるよう、検討しています。
土木における地盤工学の役割は、土の力学的現象を室内の実験で理解し、実際の構造物の設計に役立てていくこと。そのことはまさに研究の醍醐味です。難しさは自然の材料が研究対象であること。
遺跡での測量の様子
土の性質は場所ごとで違うし、同じ場所の土であってもばらつきがあります。そうした条件下で土の本質的な性質を見出すのが難しさであり、面白さでもあります。
残念に思うのは、地盤は構造物に比べると目立たないこと。研究は、地味ではあるけど国の社会基盤を支える重要な役割を担っていることをもっとアピールしていきたいと思っています。
地盤工学が貢献できる領域を広げていきたい、と思っています。地盤は、文字通り人間が利用するあらゆる空間の基礎をなしており、それを扱う地盤工学は他分野と協働する高いポテンシャルを有しています。海底から宇宙まで多方面にアンテナを張って飛び込んでいきたい、と思っています。
※プレスネット2019年7月325日号より掲載
過去の「広島大学の若手研究者」はコチラ
投稿者名: プレスネット